この記事では、OpenShiftについての概要を分かりやすく解説します。
技術的な背景からメリット・デメリット、具体的な活用例まで盛り込みましたので、OpenShiftを初めて知る方や、導入を検討している方の参考になれば幸いです。
目次
1. はじめに:OpenShiftとは?
OpenShift(オープンシフト)は、Red Hat社が開発・提供しているコンテナアプリケーションプラットフォーム(PaaS: Platform as a Service)です。
クラウドネイティブ時代において、コンテナ技術を活用したアプリケーション開発・運用は非常に重要ですが、OpenShiftはその中核を担うソリューションとして広く注目を集めています。
もともとPaaSとしての思想が強く、開発者がコードに専念できる環境を提供しつつ、運用面ではコンテナやクラスタの管理を容易にする仕組みを備えています。
OpenShiftはKubernetesをベースとしており、コンテナオーケストレーション機能を強化しながら、エンタープライズ向けの機能やサポートを付加していることが特徴です。
「なぜOpenShiftが必要なのか?」と問われれば、答えは主に以下のようなポイントに集約されます。
- 開発から運用までの一貫したパイプライン
コードのビルド、コンテナイメージの管理、デプロイ、スケーリングなどを統合的に管理できる。 - Kubernetesをさらに使いやすく拡張
自前でKubernetesを立ち上げる場合と比べて、インストールや管理がシンプルで、安定性やセキュリティ面も強化されている。 - 企業向けサポートと豊富なエコシステム
Red Hatのエンタープライズサポートがあり、安心して導入・運用できる。パートナーやサードパーティ製品との連携も充実している。
本記事では、このOpenShiftがどのように生まれ、どのような技術基盤の上に成り立ち、なぜKubernetesやRed Hatとの関係が重要なのか、さらに実際の利用シーンやメリット・デメリットなどについて詳しく解説します。
2. OpenShiftを支える技術的背景
OpenShiftを理解するうえで欠かせないのが、コンテナ技術やDevOpsの考え方です。アプリケーションの開発・運用の形態は、仮想マシン主体の時代からコンテナ中心の時代へと大きく変化しています。
コンテナは、開発環境と本番環境の差異を減らしたり、サーバリソースを効率的に使うことに寄与します。
コンテナとコンテナオーケストレーション
- Dockerなどのコンテナ技術
ソフトウェアを「イメージ」という形でパッケージ化し、OS上の分離空間(コンテナ)で実行できる仕組み。従来の仮想マシン(VM)に比べて軽量かつ高速に起動できる利点がある。 - Kubernetes(クーバネティス)
多数のコンテナをクラスタ上で自動的に起動・スケーリング・ロールバックするためのオーケストレーションツール。Googleが社内ツールとして培ったノウハウをオープンソース化したものが元になっている。
OpenShiftは、Kubernetesのオーケストレーション機能をベースとしながら、DockerやPodmanなどのコンテナランタイムを扱います。
ただし、コンテナをただ起動できればよいというわけではありません。大規模運用ではモニタリングやロギング、セキュリティ管理、ネットワーク設定など、より多角的な管理が要求されます。
DevOpsとGitOps
近年では、開発と運用の連携を強化するDevOpsや、インフラの設定も含めてGitで一元管理するGitOpsが注目を集めています。OpenShiftは標準でCI/CD機能を提供するなど、このDevOpsの流れを踏まえた作りになっています。
コンテナイメージのビルドやレジストリ、デプロイのパイプラインを一体化して提供することで、開発者がコードに集中し、運用担当者が標準化された方法でクラスタを管理できるようになっているのです。
3. Red Hatとの関係:ビジネスと技術の両面から
Red Hatといえば、Linuxディストリビューションとして著名なRed Hat Enterprise Linux(RHEL)を開発・提供している会社として知られています。
OpenShiftはこのRed Hatのプロダクト群の一つであり、Red Hatの豊富なエンタープライズ向け製品やサービス、コミュニティとの協力関係のもとに進化を続けています。
Red Hat Enterprise Linuxとの親和性
OpenShiftの基本コンポーネントの多くがRHELをベースとして動作するように設計されています。RHELの優れた安定性やセキュリティパッチ、サポート体制が活かされることで、OpenShift自体もエンタープライズ環境に強い信頼性を提供します。加えて、Red Hatが提供するその他の関連サービス(Ansible Tower、RHEL CoreOSなど)とも連携がスムーズに進む点が大きなメリットです。
Red Hatのビジネスモデル
Red Hatはオープンソースソフトウェアを有償サブスクリプションで提供するビジネスモデルを確立しており、OpenShiftも例外ではありません。OpenShift自体はオープンソースのOKD(Origin Community Distribution, 旧OpenShift Origin)として公開されていますが、エンタープライズ向けのサポートや追加機能、リソースを享受するには、Red Hatの商用版OpenShiftサブスクリプションを購入する形になります。
企業にとっては、コミュニティ版よりも安定し、サポートを受けながら導入できるメリットが大きいので、ミッションクリティカルな運用を担う際には商用版を選ぶケースがほとんどです。
一方、個人や小規模環境で試したい場合には、OKDを利用してOpenShiftの機能を学習・検証するという形も可能です。
4. Kubernetesとの深い結びつき
OpenShiftは「Kubernetesプラスアルファ」のプラットフォームです。では具体的に、Kubernetesとどう違うのでしょうか?
Kubernetesとの共通点
- コンテナオーケストレーション
PodやDeployment、ServiceなどKubernetesのリソースを基本的に同様の概念で扱う。 - マニフェストの管理
YAML形式の定義ファイルでリソースを宣言的に管理する。 - 拡張性・プラガブル性
オペレーター(Operators)やカスタムリソース定義(CRD)を使った拡張が可能。
OpenShiftならではの追加要素
- インストールやアップグレードの容易さ
Kubernetesを自前で構築する場合、ネットワークやストレージ、ロードバランサ設定など、かなりの作業量があります。OpenShiftはインストールツールやガイドが整備されており、エンタープライズ利用に必要な設定がプリセットされているため、導入が比較的簡単です。 - 開発者向け機能の充実
ソースコードから直接コンテナイメージをビルドし、内部のレジストリに取り込み、そのままデプロイできる「Source-to-Image (S2I)」などの機能が備わっています。これにより、Gitリポジトリからワンクリックでアプリケーションを立ち上げられるようになるなど、アプリケーション開発の効率化が図られています。 - 強化されたセキュリティ機能
SELinuxやRBAC(Role-Based Access Control)を活用した細かなアクセス制御、イメージの検証やポリシー管理など、Red Hatが長年にわたり企業向けLinuxディストリビューションで培ってきたセキュリティ機能をプラットフォームレベルで包括的に提供しています。
つまりOpenShiftは、Kubernetesを動かすときにユーザー企業側が独自で行うべき多くの作業を標準化・自動化し、より「使いやすく」「セキュアに」「企業向けに」仕上げているのです。
5. OpenShiftの主な機能
ここでは、OpenShift特有の主な機能をいくつかピックアップして紹介します。実際のプロダクトのバージョンやエディションによって機能は異なる場合もありますが、全体的なイメージをつかむうえで参考にしてください。
- Source-to-Image (S2I)
Gitなどからソースコードを取得し、自動的にビルドしてコンテナイメージを作成し、OpenShift内のレジストリに格納して、アプリケーションをデプロイするまでを一貫して行う仕組み。ビルド設定をカスタマイズでき、言語やフレームワークごとに柔軟に対応可能。 - BuildConfig・DeploymentConfig
OpenShiftにはKubernetesのDeploymentより以前からDeploymentConfigという独自リソースが存在します。これによってビルドやリリースの戦略を詳細に設定し、ロールバックやローリングアップデートもスムーズに実行できます。 - Image Streams
OpenShift内部で管理されるコンテナイメージの「メタデータ的な」管理単位。特定のイメージを更新すると、そのイメージを参照しているDeploymentConfigが自動的に再デプロイされるなど、イベントドリブンなワークフローを実現できます。 - Webコンソール
Kubernetes純正のダッシュボードよりもリッチな管理コンソールが提供されます。開発者視点と運用管理者視点の両面で、GUIを通じてクラスタの状態やアプリケーションの稼働状況をモニタリングし、各種リソースを操作できます。 - 内蔵レジストリ
コンテナイメージをクラスタ内でホストするためのプライベートレジストリが最初から利用できます。外部のレジストリ(Docker HubやRed Hat Quayなど)との連携も可能です。 - OperatorHub
Kubernetesの拡張機能としてのOperatorをカタログ形式で簡単に導入・管理できる仕組み。データベースやミドルウェアなどの運用を自動化するOperatorを、GUIやCLIからスムーズにインストールできます。
6. OpenShiftのメリット・デメリット
メリット
- エンタープライズに適したサポートと安心感
Red Hatのサブスクリプションを受けることで、長期的なサポートやパッチの提供を得られます。ミッションクリティカルなシステムを運用する企業にとっては大きな魅力です。 - Kubernetesの学習コスト軽減
素のKubernetesをゼロから構築するよりも、OpenShiftの導入や運用のほうがガイドやツールが充実しているため、学習コストが低くなる傾向があります。 - 開発者に優しい機能の充実
S2IやWebコンソールなど、アプリケーション開発やデプロイにおける生産性を高める仕組みが豊富に用意されています。とくに複数のプログラミング言語やフレームワークを同時に扱うようなプロジェクトでは、OpenShiftの恩恵が大きいです。 - 包括的なセキュリティ設計
SELinuxやRBACなどをベースに、企業レベルのセキュリティ要件を満たすための機能が標準で備わっています。監査ログやポリシー管理など、運用上欠かせない機能が充実しているのもポイントです。
デメリット
- コストがかかる
エンタープライズ向けサブスクリプションが必要になるため、単純に「無料のKubernetesだけ使いたい」というケースには不向きです。また、OpenShiftを動かすためのハードウェアリソースやクラウドリソースも、ある程度の規模が必要になる場合があります。 - バージョン間の互換性や複雑性
OpenShiftはKubernetesの進化に合わせて頻繁にバージョンアップされますが、その際に新機能の導入やアップグレード作業が複雑になることがあります。大規模なクラスターであればあるほど、影響範囲が大きくなるため、適切な計画とテストが欠かせません。 - コミュニティ版(OKD)と商用版の違い
無償のOKDでは商用サポートが得られず、エンタープライズ利用時の安全網がないため、導入ハードルが下がるわけではありません。結果として企業導入時はサブスクリプションを検討せざるを得ない状況となり、コスト面や調達プロセスで時間を要することがあります。
7. 利用シーン・ユースケース例
OpenShiftはさまざまな業種や規模の企業で導入されています。ここでは、いくつかの代表的なユースケースを挙げてみましょう。
1. 金融・保険業界
金融・保険業界は特にセキュリティや可用性を重視します。従来はオンプレミスの大規模システムで構築されてきましたが、クラウドシフトの潮流に合わせて、OpenShiftを活用するケースが増えています。
理由としては、Red Hatの手厚いサポートと強固なセキュリティ機能が挙げられます。コンテナでマイクロサービス化したアプリケーションをOpenShift上で稼働させることで、既存システムの一部を段階的にモダナイズしていく動きが活発です。
2. 製造業・IoT
製造現場で収集したセンサーデータやIoT機器からのログをリアルタイムに処理する基盤として、OpenShiftが選ばれることがあります。
Kubernetesベースのスケーラブルな環境が、ピーク負荷に合わせた柔軟なリソース割り当てを可能にします。また、エッジコンピューティングの拡大に伴い、小規模なエッジ環境でのコンテナ運用にも対応するニーズが高まっています。
3. Webサービス・SaaSプロバイダ
迅速なリリースサイクルと高いスケーラビリティが求められるWebサービスやSaaSプロバイダにとっては、OpenShiftによるCI/CDパイプラインの構築が大きな武器となります。
アプリケーションの更新頻度が高い場合でも、ソースコードからコンテナビルド、デプロイまでを自動化できるため、リリースのたびに手動でインフラをいじる手間が大きく減少します。
4. ハイブリッドクラウド戦略
一部のシステムをオンプレミスのOpenShiftクラスタで運用し、他の部分をAWSやAzure、Google Cloudなどのパブリッククラウド上のOpenShift環境で運用するといったハイブリッドクラウド戦略も一般的になりつつあります。
OpenShiftは複数のインフラ上で共通の運用モデルを提供するため、運用効率が高まり、クラウド間の移行コストを低減する効果があります。
8. まとめと今後の展望
OpenShiftは、Kubernetesという強力なオーケストレーションエンジンを核に据え、それを企業利用に適した形に拡張・強化した統合プラットフォームです。Red Hatのエンタープライズ向けサポートを活用できる点は、銀行や製造業といった高い信頼性を要する業種だけでなく、スタートアップやオンラインサービス事業者にも大きなメリットがあります。
一方で、OpenShiftは「Kubernetesを容易に使えるようにする」という点で強みがある反面、純粋にKubernetesの学習や自由度を重視するエンジニアにとっては、カスタマイズの自由度がやや制限される部分もあります。また、サブスクリプションのコストやバージョンアップのたびに行う作業負荷など、エンタープライズ向けソリューションならではの懸念点もあります。
しかしながら、今後クラウドネイティブなアプリケーション開発がさらに進み、マイクロサービスやServerless、エッジコンピューティングなどさまざまな新技術が登場するなかで、それらを統合的に管理しやすいプラットフォームとしてのOpenShiftの重要性は増していくと考えられます。Red Hatが積極的に取り組んでいるOperatorフレームワークの拡充や、Serverless機能のサポート強化、ハイブリッドクラウド/マルチクラウド対応など、利用者がメリットを感じる改良が続々と投入されています。
もし、組織としてコンテナやKubernetesの導入を検討している段階であれば、一度OpenShiftの評価版やOKDを試し、実際にどの程度運用がラクになるのかを確かめてみるとよいでしょう。また、すでにKubernetesを導入している場合であっても、OpenShiftがもつ追加機能やサポート体制がもたらす利点を再検討することで、さらに運用効率を高める可能性が見出せるかもしれません。
最後に
本記事では、OpenShiftが持つ特徴やKubernetesとの関係、Red Hatのサポートを中心としたエンタープライズ向けの強みなどについて解説しました。特に以下のポイントを押さえておけば、OpenShift導入のメリットや注意点を理解しやすいでしょう。
- Kubernetesをベースにした強力なオーケストレーション機能
- エンタープライズ向けのサポートやセキュリティ機能
- Source-to-ImageやWebコンソールなど開発者フレンドリーな機能
- 商用サブスクリプションが必要になるというコスト面の考慮
- ハイブリッドクラウドやマルチクラウド戦略との相性
OpenShiftの導入を成功させるには、実際の業務要件と照らし合わせて検討し、PoC(概念実証)などで運用面の課題やコストのバランスを確認することが大切です。これからのITインフラに求められる柔軟性・効率性・拡張性を考えれば、OpenShiftは非常に有力な候補の一つと言えるでしょう。
もしまだ触れたことがない方は、まずはドキュメントやトライアル版でその世界に触れてみてはいかがでしょうか。クラウドネイティブへの移行を成功させる大きなステップになるかもしれません。
以下の公式LINEでは最先端のAI情報を無料で発信しています。是非登録してみてください。