この記事は、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)の代表的ソリューションであるNutanixについて、できるだけわかりやすく、かつ詳しく解説するものです。
記事のボリュームが大きくなりますが、「Nutanixとは何か」を総合的に理解するための参考になれば幸いです。記事の後半ではVMwareとの違いにも触れていますので、ぜひ最後までご覧ください。
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1. 背景と課題
企業のITインフラはここ十数年で劇的な変化を遂げました。かつては物理サーバーを多数設置し、それぞれにOSをインストールして業務アプリケーションを動かす「1サーバー1役割」という構成が一般的でした。
しかし、この方法はサーバーが増えるほど設置面積や電力消費、冷却コストなどが雪だるま式に増大する一方で、CPUやメモリなどのリソースを十分に活用できないという問題が発生しました。
この課題を解決したのが「仮想化技術」の普及です。VMwareなどのハイパーバイザを導入することで、1台の物理サーバーを複数の仮想マシン(VM)として運用できるようになり、リソースの有効活用やサーバー台数の削減が大きく進展しました。
さらに、仮想化が進むとサーバーだけでなくストレージやネットワークの仮想化も発展し、クラウドとの連携なども含め複雑なインフラを運用する企業が増えています。
ところが、システム規模の拡大と機能の高度化に伴い、運用管理が複雑になるという別の課題が浮上しました。従来の「3階層型アーキテクチャ(サーバー、ストレージ、ネットワークを分けて構成)」では、構成変更やスケールアップ・スケールアウトに多くの工数がかかり、更新サイクルやコスト管理が一段と困難になります。
そこで注目を集めるようになったのが、ソフトウェアでストレージやネットワークを統合し、必要なリソースをノード単位で拡張できる「ハイパーコンバージドインフラ(HCI)」です。
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2. ハイパーコンバージドインフラ(HCI)の概要
ハイパーコンバージドインフラ(Hyper-Converged Infrastructure) とは、物理サーバー、ストレージ、ネットワーク、そして仮想化ソフトウェアといったインフラの主要要素を、一元化して提供するアーキテクチャです。
従来は高価で複雑な専用ストレージ(SANやNAS)を用意していた部分を、汎用的なx86サーバーに内蔵されたディスクを束ねることで仮想ストレージとして提供し、サーバー群と一体化させます。これにより以下のメリットが得られます。
- ハードウェアの集約
余分なストレージ筐体や専用ネットワーク機器が不要になる場合が多く、物理的構成がシンプルになります。 - 運用の一元化
ソフトウェアによってリソース管理を統合し、統一されたUIやAPIからモニタリング・制御が可能になります。 - 容易なスケールアウト
新しいノードを追加すれば、コンピュートリソースだけでなくストレージ容量も同時に増やせるため、事前の容量見積もりや大規模なリプレイスが不要となります。
HCIは、クラウドのような柔軟性とスケーラビリティをオンプレミス環境にもたらすソリューションとして急速に普及しました。その主要ベンダーの一つが、今回紹介するNutanixです。
3. Nutanixとは何か
3.1 Nutanixの歩みとHCIの関係
Nutanix(ニュータニックス)は、2009年にアメリカ合衆国で設立された企業で、当初からハイパーコンバージドインフラに特化したソフトウェアを開発・提供してきました。
創業メンバーにはGoogleやVMwareでの開発経験を持つ技術者が多く、クラウドを支える大規模分散ストレージのノウハウをオンプレミス環境に適用するという発想を持ち込んだことで注目を浴びました。
Nutanixが提供するプラットフォームは、一般的なx86ベースのサーバーをクラスター化し、そこにNutanixのソフトウェアをインストールするだけでストレージや仮想化基盤をまとめて利用できるという特徴があります。
ハードウェアはDell、HPE、Lenovo、Fujitsuなど様々なベンダーのサーバーで動作し、企業の好みに合わせて選ぶことができる点も魅力の一つです。
3.2 Nutanixの主なソフトウェアコンポーネント
- Nutanix AOS (Acropolis Operating System)
- Nutanixプラットフォームの中核をなすソフトウェアです。
- ストレージ、コンピュート、ネットワークなどのリソースを分散して管理し、クラスター全体で高い可用性とパフォーマンスを実現します。
- たとえば、データのレプリカを複数ノードに分散して書き込んだり、負荷を平準化したりする機能をAOSが担っています。
- AHV (Acropolis Hypervisor)
- Nutanix独自のハイパーバイザです。
- オープンソースのKVMをベースに改良が加えられており、Nutanix AOSとの連携が最適化されています。
- 別途ライセンス費用がかからず、Nutanix導入時に利用できるのが強みです。
- もちろん、VMware ESXiやMicrosoft Hyper-Vもサポートしていますが、AHVを使うことでNutanixの機能がシームレスに利用でき、運用管理がいっそうシンプルになります。
- Prism(プリズム)
- クラスター全体をGUIベースで一元管理できるツールです。
- ダッシュボード上でCPU・メモリ・ストレージ使用量やVMの稼働状況などをリアルタイムで確認でき、アラートやリソースプランニングの支援機能も備えています。
- ワンクリックでソフトウェアアップデートやノード追加が可能で、従来の仮想化基盤より大幅に操作が簡易化されています。
- Calm, Flowなどの拡張機能
- Nutanix Calm:アプリケーションのライフサイクル管理や自動化(Infrastructure as Code的なアプローチ)をサポート
- Nutanix Flow:ネットワークマイクロセグメンテーション機能やセキュリティポリシーの管理などを提供
これらの拡張機能を組み合わせることで、インフラだけでなくアプリケーションレベルの自動化やセキュリティ面の強化まで対応できるようになっています。
4. Nutanixのメリット
4.1 運用管理のシンプル化
Nutanixの最大の特徴といっても過言ではないのが、「運用管理の容易さ」です。Prismを利用した一元管理は、ストレージやVM、ネットワーク設定などを一つのコンソールから直感的に操作できるため、専門的な知識や複雑な手順を最小限に抑えられます。
ノードの追加やソフトウェアアップデートもガイドに従ってクリックするだけというケースが多く、従来の3階層型インフラでは考えられないほど手軽です。
4.2 スケーラビリティとコストメリット
HCIのメリットとして挙げられるのが、必要に応じてノードを追加しやすいスケールアウトのしやすさです。Nutanixのクラスターに新しいノードを組み込むと、自動的にストレージ容量と計算リソースが増加し、AOSがデータの再配置や負荷分散を行います。これにより、大規模なリプレイスを伴うことなく少しずつ投資しながらインフラを拡張できます。
また、AHVを使う場合はハイパーバイザの追加ライセンス費用が不要なのも大きな利点です。従来の仮想化製品を利用すると、サーバー台数やCPUソケット数、コア数に応じてライセンス費用がかさむケースがありましたが、NutanixならAOSのライセンスに含まれる形で利用できます。
さらにストレージを別途購入せず、サーバー内蔵ディスクを活用するため、専用ストレージ機器よりも導入コストを抑えられる可能性が高まります。
4.3 選択肢の広さ(マルチハイパーバイザ対応)
先述のとおり、Nutanixは自身のAHVだけではなくVMware ESXiやMicrosoft Hyper-V、さらにはCitrix Hypervisorなど複数のハイパーバイザをサポートしています。既存のライセンス資産や運用ノウハウ、アプリケーションの互換性などを考慮しつつ、「まずはESXiで導入して、将来的にAHVへ移行する」といった段階的な戦略も取りやすいのです。
5. Nutanixのデメリット・注意点
- ライセンス費用とサポートコスト
- AHVは追加ライセンス不要ですが、Nutanix AOS自体のライセンスと保守費用は発生します。
- 従来のストレージ+仮想化環境の組み合わせよりも導入コストが抑えられる一方、長期的に見た運用・保守費用の試算はしっかり行う必要があります。
- 自由度の制限
- ハイパーコンバージド特有の「ソフトウェアで標準化された運用」を前提としているため、細かくカスタマイズしたい要件や特殊なハードウェア構成がある場合には制限を受ける可能性があります。
- ただし、昨今はNutanixも複数ベンダーのサーバーモデルをサポートしており、むしろ選択肢は広がっています。
- オンプレミスとクラウドの連携
- Nutanix自身もクラウド連携サービス(Nutanix Clustersなど)を提供していますが、AWSやAzureとのネイティブ統合と比較すると、まだサービス範囲に差があります。
- 完全なマルチクラウド戦略やハイブリッドクラウド戦略を検討している場合は、各クラウドベンダーのオファリングとの比較が必要です。
6. VMwareとの違い
ハイパーコンバージドを検討する上で、もう一つの有力候補として挙がるのがVMware製品です。VMwareはサーバー仮想化の分野で圧倒的なシェアを持ち、vSphere、vSAN、NSXなど、ハイパーコンバージドに必要な機能を個別の製品として提供しています。ここでは、NutanixとVMwareの違いをいくつかの観点で見ていきましょう。
6.1 提供形態とアーキテクチャの比較
- Nutanix
- 最初からHCIを実装するための統合ソフトウェアとして設計されている。
- AOSがストレージ管理を担い、AHVを含む仮想化機能やネットワーク機能をソフトウェアレイヤーで一体提供。
- Prismによる一元管理が標準装備。
- VMware
- 元々はハイパーバイザ(ESXi)のベンダー。
- HCIを構築する場合は、ストレージ仮想化のvSAN、ネットワーク仮想化のNSXを組み合わせる必要がある。
- 管理面ではvCenterやvRealize、NSX Managerなど、複数コンポーネントを連携させる。
6.2 仮想化ソフトウェアの比較(AHV vs ESXi)
- AHV(Nutanix)
- KVMをベースにしたハイパーバイザで、Nutanixに最適化されている。
- 追加のハイパーバイザライセンス費用が不要。
- Nutanixが全面サポートを提供し、AOSとの親和性が高い。
- ESXi(VMware)
- サーバー仮想化分野のデファクトスタンダードであり、長い実績と豊富な機能を持つ。
- ただしライセンス費用や、運用に必要なvCenterライセンスなども含めてコストがかかる場合が多い。
- VMotionやDRSなど、高度な機能とエコシステムの広さが強み。
6.3 運用管理のアプローチ
- Nutanix
- PrismというシンプルなGUIが標準で提供され、ノードの追加やソフトウェアアップデートも容易。
- 直感的な操作ができるため、仮想化やストレージ管理に慣れていないチームでも比較的学習コストが低い。
- VMware
- vSphere(ESXi)+vCenterで基本管理を行い、さらにvSANやNSXを組み合わせると管理ポイントが増える。
- 高度な機能や詳細な設定を行える一方、ライセンス形態や製品バージョンの違いなどで運用設計が複雑になる傾向がある。
6.4 ライセンスとコストモデル
- Nutanix
- AOSのライセンス体系によって、機能の幅が異なる(Pro、Ultimateなどのエディションがある)。
- AHV利用で仮想化ライセンスが不要になるケースも多く、ストレージ専用機器が不要な点も含めて、トータルコストが削減しやすい。
- VMware
- vSphere、vSAN、NSXなどの製品をそれぞれライセンス購入する必要がある。
- エディションやCPUソケット数、コア数などによって価格が変わりやすく、導入前の見積もりが複雑になりがち。
- 既にVMware製品を大規模に導入している環境では、追加投資よりも既存ライセンス資産の活用を優先することも。
7. どちらを選ぶか:検討のポイント
- 運用の簡易性を重視するか、柔軟性・カスタマイズ性を重視するか
- Nutanixは標準化された一体型ソフトウェアを強みに、シンプルな運用管理を提供。
- VMwareは個別コンポーネントを細かく組み合わせて高度な構成が可能だが、その分ノウハウやライセンス管理が複雑。
- 既存のVMware環境との親和性
- 既にvSphereを中心とした仮想化環境を大規模に構築済みで、オペレーションも確立されている場合、VMware HCIを導入するほうがスムーズかもしれない。
- 新規にHCIを導入する、あるいは管理者が少人数のチームで運用する場合はNutanixの一括管理が魅力。
- ライセンスコストのシミュレーション
- Nutanixの場合はAOSのライセンス費用とハードウェア費用が主となり、AHVを使えば仮想化ライセンスが抑えられる。
- VMwareの場合はvSphereだけでなく、vSANやNSXなどHCIの構成に必要なライセンスコストを総合的に検討する必要がある。
- 将来的な拡張計画とクラウド連携
- NutanixのNutanix ClustersはAWSとの連携を強化しているが、クラウド連携の機能範囲はVMware Cloud on AWSなどと比較して要検討。
- VMwareはAWSだけでなく、AzureやGoogle Cloudとも連携を進めており、既にマルチクラウド戦略を始めている企業にとっては優位となるケースがある。
8. まとめ
本記事では、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)の概念からNutanixの特徴までを解説し、VMwareとの違いにも触れました。ポイントを整理すると以下の通りです。
- ハイパーコンバージドインフラ(HCI)の役割
- サーバー・ストレージ・ネットワーク・仮想化をソフトウェアで統合し、シンプルかつスケーラブルなオンプレミス環境を実現する。
- Nutanixの特徴
- AOSがクラスター全体を分散制御し、高可用性・高パフォーマンスを提供。
- AHVの利用で仮想化ライセンスコストを抑えられる。
- Prismによる一元管理が運用チームの負担を軽減。
- DellやHPE、Lenovoなど複数ベンダーのサーバーハードウェアを選択可能。
- VMwareとの比較
- VMwareは仮想化のデファクトスタンダードだが、HCIを構成するにはvSAN、NSXなど複数製品を組み合わせる必要がある。
- NutanixはHCIを前提に開発された統合ソフトウェアのため、導入や運用がシンプルになる可能性が高い。
- ライセンス費用や既存環境との親和性、将来的なクラウド統合などから総合的に判断する必要がある。
最終的に、「どちらが絶対的に優れているか」という単純な答えはありません。それぞれに強みや弱みがあり、企業のIT戦略や既存資産、運用体制との整合性が重要です。Nutanixは特にシンプルな運用管理とスケーラビリティを求める企業にとって大きな魅力がある一方、VMwareは長年の実績と豊富なエコシステムを強みに、多様なシナリオに対応しやすいです。
- もし今までVMware中心の仮想化環境を運用してきて、既に熟練の管理者がいるなら、そのままvSANなどを導入してHCI化する選択肢も十分に考えられます。
- 逆に、新規導入やリプレイスのタイミングで「とにかく運用負荷を減らしたい」「コスト削減を第一に考えたい」というのであれば、Nutanixの検討が大いに価値をもたらすでしょう。
いずれにしても、今後の企業ITインフラはオンプレミスとクラウドが混在するハイブリッド構成となる可能性が高く、その基盤技術としてHCIがますます重要視されていくことは間違いありません。ぜひ、本記事をきっかけにNutanixやVMwareによるHCIについて情報収集を進め、最適なプラットフォームを選択してみてください。