こんにちは。わさおです。
この記事では通信キャリアの業務の自動化レベルを「職種×フェーズ」でそれぞれ定義していきます。自動化のレベルについては、TM Forumの定義に則り、以下の通りとさせていただきます。
目次
【前提】自動レベルの定義
![](https://itconsultant-dictionary.com/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
Lv0:完全手動(Manual / Ad Hoc)
概要
・すべての作業が人手や属人的なノウハウに依存しており、ドキュメント化・標準化が不十分。
・作業の成否は担当者のスキルや経験に大きく依存するため、品質や工数が安定しない。
具体的な特徴
手動での入力や操作:機器の設定や監視ログの確認、レポート作成などを完全に手動で行う。Excelやメール、口頭連絡が主流で、システム連携がない。
属人的な情報管理:作業手順やノウハウが個人に属しており、引き継ぎや代替要員の対応が難しい。設計図やマニュアルがあっても最新化されておらず、現場と乖離しているケースも多い。
ヒューマンエラーが多発:作業プロセスでのコピペミス、設定値の打ち間違いなどが頻発しやすい。
トレーサビリティの欠如:誰が、いつ、何をしたのかが分からない・追跡できない。問題発生時も原因特定や再発防止策の策定に時間がかかる。
Lv1:部分的自動化(Script / Tool-based Automation)
概要
単一の作業や手順をスクリプトや単機能ツールで自動化。ただし、全体プロセス(計画・設計・構築・運用・保守)のうちの一部分しか自動化されていないため、他の多くの工程は依然として人力で対応。
具体的な特徴
スクリプト・テンプレート利用:CLIの設定や単純な繰り返し処理をスクリプト化、あるいはテンプレートを活用して手入力を削減。監視ツールやBIツール、チケット管理システムなどポイントソリューションを導入。
属人的な判断がまだ多い:自動化された部分以外は人間が判断し、手動でつないでいる。結果として、スクリプトやツールを使いこなせる人材が限定されがち。
情報の可視化が進む:一部のデータや作業状況が見える化され、属人的リスクはやや低減。しかし、ツール同士の連携は十分ではなく、まだサイロ化している場合が多い。
導入初期の成功体験:Lv0との比較では作業工数・ミスが減り、生産性や品質が向上する。一方で「他の工程へ広げるには何をどうすれば?」という課題が残る。
Lv2:ワークフロー自動化(Workflow / Orchestration)
概要
プロセス全体の中で複数の工程を一連のワークフローとして自動化し、ツール同士やシステム間の連携が進む。作業が標準化され、組織としてのノウハウが蓄積・共有されやすくなる段階。
具体的な特徴
複数作業の部分連携:例:要件定義 → テンプレート生成 → 自動コンフィグ投入 → テスト → 結果レポート、のように一連の作業がツール連携で自動化。チケット管理、在庫管理、構成管理(CMDB)なども統合運用され始める。
標準化・テンプレート化の浸透:「この場面ではこのテンプレを使う」「この設計変更時は自動テストを実行する」といった標準プロセスが定義され、属人依存が下がる。
例外対応は人が行う:正常系や典型的なケースは自動化されるが、イレギュラー対応にはオペレータやエンジニアが介入。ただし例外が発生したら、ワークフローを更新・拡張して徐々に自動化範囲を広げる文化が生まれやすい。
可視化・統計分析が進む:ワークフローごとに作業ログや稼働状況が蓄積され、データが組織ナレッジとして活用され始める。トラブルシュートや改善提案がしやすくなる。
Lv3:高度自動化(Closed-loop & AI-Assisted Automation)
概要
AIや機械学習を本格的に取り入れ、リアルタイム解析や予兆検知、セルフヒーリング(自動復旧)を実装。ワークフローはゼロタッチオペレーション/クローズドループ制御へ進化し、人が関与しなくても動的に最適化・改善を繰り返す段階。
具体的な特徴
AIによる予測・推論:過去の障害履歴やパフォーマンスデータを学習し、「数時間後にリソース不足が発生する可能性が高い」といった先読みを行う。自動的に帯域を増強したり、サーバを追加したりといったプロアクティブな処置が可能。
セルフヒーリング(自動復旧):障害が発生すると、ルーティング切り替えやプロセス再起動などの一次対応をシステムが即時実行。復旧できなかった場合にのみ人的エスカレーションがかかる。
ゼロタッチオペレーションの実現:モニタリング → 異常検知 → 自動対策 → 検証 → 再学習 といったPDCAサイクルをシステムが継続的に回す。運用者やエンジニアは最終承認やポリシー策定、例外対応がメイン業務に。
高度な分析と意思決定サポート:AIが「最適な設計変更」「優先度の高い改善策」を自動提案し、人はその提案を審査・採択する立場。オペレーションコスト・障害リスクが大幅に減り、サービス品質が向上。
Lv4:完全自律型(Full Autonomous / Self-)
概要
システムやネットワーク、設備などが自己認識(Self-Aware)し、自己学習(Self-Learning)し、状況に応じて自己最適化(Self-Optimizing)・自己修復(Self-Healing)を行う。作業や判断がほぼ自動化・自律化され、人間は主に監査・全体方針の設定を行うのみ。
具体的な特徴
ビジネス要件や高レベル目標だけを入力:「このサービスを、これくらいのコスト・パフォーマンスで提供したい」といった抽象度の高い要望を与えると、システムが最適な設計・実装・運用方法を自動的に構築。
総合的な自動意思決定:障害対応はもちろん、新機能追加やリソース拡張もシステム間の協調により自動判断。必要に応じてサプライチェーンや外部サービス連携も機械同士で行い、発注や契約手続きを進めるケースも想定。
ロボット・IoTとの連携で物理施工・保守までも自動化:ネットワーク機器のラックマウントや配線、基地局やファイバーの物理作業もロボティクスやドローンが担う。設備故障が発生する前に自動修理・交換を行い、ノンストップ運用を実現。
人の役割は“監督”や“戦略策定”:技術者は「例外的な大規模方針転換」や「ポリシーの大幅変更」「倫理的・法的判断」など高度な意思決定にのみ関わる。日常オペレーションはほぼシステム任せ。
Lv0:手動管理(属人的、品質が不安定)
Lv1:自動管理(部分的にスクリプト・ツールを活用。単一作業の自動化。)
Lv2:部分自動化(ポリシーベース/ルールベースの自動化。複数作業の自動化。標準化が進む。)
Lv3:条件付き自動化(AI/MLによる高度な分析を活用した自動化。複数のNWドメインをまたいだ閉ループ自動化の実現。ゼロタッチオペレーション。人の役割は高度な判断にシフト。)
Lv4:高度自動化(自律的・継続的な自動化。ビジネス要件レベルの指示だけで良くなる。人は戦略・監督のみ。)
Lv5:完全自動化(完全に自己進化するネットワーク)
【前提】職種とフェーズの定義
ITや通信業界では、自動化の重要性が高まる一方、「自動化」と一口に言っても、職種によって関わる業務や範囲が大きく異なります。たとえば、ネットワークエンジニアはネットワークの設計・構築における自動化を進め、システムエンジニアはアプリケーションやサーバインフラの自動化を担当するなど、それぞれが違った観点から取り組む必要があります。
職種は以下の通り定義いたします。
- プロダクトマネージャー(PM)
- ネットワークエンジニア(NE)
- システムエンジニア(SE)
- 建設エンジニア(CE)
- ネットワーク運用者(NO)
フェーズは以下の通り定義いたします。
- 企画
- 計画
- 設計
- 構築
- 運用・保守
1. プロダクトマネージャー(PM)
プロダクトマネージャーは、サービスや製品の企画立案・要件定義・ロードマップ策定などをリードする役割です。自動化と聞くと、開発・運用側の話になりがちですが、PMも自動化の恩恵や、他部門との連携におけるタスク効率化を考慮する必要があります。
1.1 企画フェーズ
Lv0:アイデア創出や市場調査は個人の経験に頼り、メモやExcelで整理。顧客要望のヒアリングも属人的で記録が曖昧。
Lv1:BIツールなどを使い、データに基づく分析をある程度は実施(ただし分析~意思決定の大部分は人力)。顧客アンケート結果や市場データをまとめるテンプレート導入。
Lv2:市場データ収集から基本的な解析までをMAツールなどでワークフロー化。企画会議の議事録や意思決定プロセスが共有システムに自動連携。
Lv3:AIが市場動向や顧客セグメント分析を自動で行い、製品アイデアを複数パターン提案。過去実績を学習し、PMに対して「この機能は優先度が高い」などのレコメンドを実施。
Lv4:市場変化を常時学習し、AIが自動で製品企画立案~事業案作成まで行う。PMは最終判断やビジネスビジョンの策定を行うのみ。
1.2 計画フェーズ
Lv0:要件定義、ロードマップ策定、予算・リソース見積もりは人力でExcel管理。各部門への連絡もメールや口頭で属人的。
Lv1:プロジェクト管理ツール(例:Trello、Jira等)の導入により、タスクやスケジュールは可視化。リソース見積もりや予算管理もツール化されるが、集計や分析は主にPMが手動で実施。
Lv2:計画~進捗管理がワークフロー化され、ステータス更新などが自動通知。リソースの不足やスケジュール遅延予測をシステムがアラート提示し、PMは対処判断。
Lv3:AIが需要予測や予算配分を算出し、複数の計画案をPMに提案。各部門のタスクも自動的に最適アサインされ、PMは承認・調整を行う程度。
Lv4:要件定義からロードマップ策定、優先度調整をシステムが自動で行い、PMは例外承認やビジネス戦略レベルの統括のみ。
1.3 設計フェーズ
Lv0:ビジネス仕様をドキュメント(Excel/Word)で個別に作成し、共有不足で齟齬が発生。設計レビューも人手による確認が中心。
Lv1:要求仕様と技術設計(NE/SEなど)の間を結ぶテンプレートを使用し、情報を整理。レビュー会議はオンライン化されるが、多くはPMの手作業・対面コミュニケーション。
Lv2:要求仕様管理ツールと連携し、仕様変更があると自動で関連部署へ通知。設計書のバージョン管理や差分比較が自動化され、齟齬を低減。
Lv3:AIが過去のプロジェクトや障害履歴を学習し、「この要求はこの方式が最適」などの提案を行う。設計段階でコストやリスクも自動試算し、PMが判断を下すだけ。
Lv4:PMが大枠のビジネス要件だけ入力すれば、システムが詳細仕様を自動生成。全社の設計ナレッジが統合され、人が行うのは最終的な承認のみ。
1.4 構築フェーズ
Lv0:進捗確認・品質チェックはPMが現場担当者から口頭・メール報告を受けて行う。トラブルやリスクがあれば都度人力で対策検討。
Lv1:プロジェクト管理ツールにより工数や進捗を見える化。構築チームとのコミュニケーションもオンライン会議・チャット活用。
Lv2:構築タスクのワークフロー化により、予定変更や課題発生時に自動で関連メンバーにアラート。簡易的な品質チェックリストもシステムが自動判定し、PMは例外対応。
Lv3:AIが過去事例を基に、工期遅延や品質低下リスクを事前予測し、PMに対策案を提示。品質評価の指標がリアルタイムで可視化され、PMが必要に応じて調整。
Lv4:構築プロセス全体(機器設定・テスト進捗・工事など)をAIがリアルタイムに管理・最適化。問題が起きても自動で根本原因を特定し、PMは重大な方針転換時のみ判断。
1.5 運用フェーズ
Lv0:運用・保守チームからの問い合わせや障害報告はPMがメールや電話で受け取るだけ。リリース後のユーザーの反応も担当者の感覚・口コミ頼り。
Lv1:チケット管理システムを導入し、運用からの問い合わせや不具合を一元的に把握。データ分析は限定的で、PMが定期的にレポート作成。
Lv2:運用から上がるデータ(障害頻度、ユーザー数など)をダッシュボードでリアルタイムに確認。PMはそこから継続的なサービス改善策を検討し、開発チームへフィードバック。
Lv3:AIが運用データを分析し、「機能Xの利用率が低いため改修を」などの改善案を提案。自動化されたA/Bテストなどの結果をPMにレコメンド。
Lv4:システムがユーザ行動や運用状況を常時解析し、機能改修やチューニングを自動実行。PMはサービス全体の方向性やビジネスゴールの確認のみ行う。
1.6 保守フェーズ
Lv0:製品・サービスの寿命管理やEOL(End of Life)の判断は個人の経験や過去の事例頼み。バージョン管理やライセンス管理も手動。
Lv1:保守計画やリプレース計画をシステム化し、簡単なリストアップ・スケジュール管理を実施。ただし、判断材料や進捗は主にPMが担当者からヒアリング。
Lv2:保守対象の稼働データやコストデータを自動収集し、更新タイミングを定量的に算出。PMは複数プランを比較して承認する。
Lv3:AIが稼働状況や障害履歴、在庫状況などを総合的に分析し、最適な保守スケジュールを策定・提案。PMはビジネス上の優先度を加味して微調整。
Lv4:サービス・設備のライフサイクルがシステム間で連携され、予防保守やリプレースも自動実施。PMはロードマップの大枠を示すのみで、運用・保守は全自動。
2. ネットワークエンジニア(NE)
ネットワークエンジニアは、ネットワークの設計。・構築・保守などを担当します。レイヤ2/3の構成や機器設定、トラフィック制御、セキュリティポリシーなどが主な対象です。
2.1 企画フェーズ
Lv0:企画会議にはあまり参加せず、問い合わせが来たら口頭で「実現できる/できない」を回答。ネットワーク新技術や要望の情報収集は個人の勉強に依存。
Lv1:ある程度の技術トレンド調査をレポート化し、PMやSEへ提供。企画初期から簡易な技術リスク評価を行うが、属人的。
Lv2:社内ナレッジベース化され、新しい企画が上がると自動で関連技術情報や過去事例を参照可能。ネットワーク要件定義に必要な基本情報をシステムが自動リストアップ。
Lv3:AIがネットワークトレンドやベンダー情報を分析し、「この企画にはSD-WANが最適」などの提案を実施。NEは提案の可否を判断し、具体的なプランを詰める。
Lv4:企画が立ち上がると自動的に最適なネットワーク技術が選定され、NEは必要最低限の承認のみ。新規技術のPoC(実証実験)もシミュレーション環境で自動化。
2.2 計画フェーズ
Lv0:ネットワーク要件定義や機器選定は、NEが経験とExcelで手作業管理。規模・帯域などの見積もりは感覚値で算出。
Lv1:部分的にシミュレーションツールを活用して、帯域・QoS要件を検証。ネットワーク構成と機器リストをWord/Excelでまとめて関係者と共有。
Lv2:在庫管理システムや回線手配システムと連携し、必要リソースの割り当てや納期を自動参照。構成図や見積もりもツールから自動生成され、NEは微調整を行う。
Lv3:AIがトラフィック増大予測や障害リスクを分析し、冗長構成や帯域計画を自動提案。NEは最終的なコストバランスや運用方針を考慮して承認。
Lv4:企画要件を入力すると、最適なネットワークリソース・構成・ベンダーを自動選定・発注。ネットワークエンジニアはほぼ監督ポジション。
2.3 設計フェーズ
Lv0:構成設計、アドレス割り当て、ルーティング設計などを一から手作業で作成。ドキュメント化や整合性チェックも担当者ごとのノウハウ。
Lv1:テンプレートやスクリプトを使って、ルーティング・ACLの設定例をある程度自動生成。ただし複雑な要件は結局手書き・手入力。
Lv2:ネットワーク設計ツールと連携し、トポロジ設計・コンフィグの自動生成を実施。バリデーション(重複アドレスやポリシー不整合)はツールが自動チェック。
Lv3:AIが最適なトポロジやルーティング方式を提案し、設計段階で障害リスクや性能をシミュレーション。NEは各種パラメータを微調整し、設計がほぼ自動完結。
Lv4:ビジネス要件(遅延・帯域・冗長度など)を入力すれば、AIが詳細設計をすべて自動生成。NEは特殊ケースの例外処理やセキュリティポリシー策定にフォーカス
2.4 構築フェーズ
- Lv0:
- CLIで一台ずつ手入力、ケーブル配線も現場との口頭コミュニケーション
- テストもマニュアル手順で実施
- Lv1:
- スクリプトやAnsibleなどを使い、一括コンフィグ投入を部分的に自動化
- 構築後のテストはツールでログ収集するが、分析は人手
- Lv2:
- CI/CDパイプラインを導入し、コンフィグ投入→テスト→検証結果のフィードバックを自動化
- バージョン管理(Gitなど)で構築手順の変更履歴を管理
- Lv3:
- AIがテスト結果をリアルタイム解析し、不具合箇所を特定・修正案を提案
- ほぼ無人で大量のネットワーク機器をセットアップ可能
- Lv4:
- 完全自律型:物理的な設置(ラックマウント等)までもロボティクスが担当し、配線・コンフィグ・検証をフル自動
- NEは全体監視や重大トラブル時の手動介入のみ
2.5 運用フェーズ
- Lv0:
- NOCの監視画面を人が眺め、障害があれば手動で切り分け・コマンド入力
- 運用ドキュメントも散在し、更新が遅れがち
- Lv1:
- 監視ツールを導入し、障害検知~チケット発行は自動化
- ただし原因分析・復旧はNEによるコマンド操作
- Lv2:
- オーケストレーションツールが一次切り分けやルート変更などを自動実行
- 異常パターンのトレンド分析もツールで可視化
- Lv3:
- AIがリアルタイムにトラフィック・ログを解析し、セルフヒーリング(帯域再配分、冗長経路切替など)を実行
- NEは高度な障害やポリシー変更時のみ対応
- Lv4:
- 完全自律型:ネットワークが自己最適化・自己修復し、障害や性能劣化をほぼゼロに近いレベルで回避
- NEはポリシー策定と大規模方針転換時の介入のみ
2.6 保守フェーズ
- Lv0:
- 機器のEoL(End of Life)情報や在庫管理は台帳・担当者の記憶頼み
- 交換作業やファームウェア更新も手動で時期を決める
- Lv1:
- 機器のライフサイクル管理ツールを導入し、EoL時期やバージョン管理を行う
- 交換時期の判断はNEがメーカ情報と照らし合わせて判断
- Lv2:
- ネットワーク運用データから機器の負荷状況や障害頻度を自動集計し、保守計画を立案
- 交換・更新手順もテンプレ化して工数を削減
- Lv3:
- AIが機器ごとの障害リスクや性能劣化を予測し、最適な交換時期やバージョンアップを提示
- NEは承認やベンダー調整などの最終判断を実施
- Lv4:
- 完全自律型:機器の健康度や在庫状況をリアルタイム分析し、必要な発注~交換作業を自動的に実施
- NEは全体のネットワーク戦略や例外事象への対処のみ
3. システムエンジニア(SE)
システムエンジニアは、サーバやアプリケーション、クラウド環境などの設計・開発・運用に携わります。インフラエンジニアやアプリケーションエンジニアとしての側面を含む場合も多いです。
3.1 企画フェーズ
- Lv0:
- 基本的には依頼が来てから動く。新技術動向は個々人で調査
- 企画初期段階にはあまり深く関与せず、要件が固まってから着手
- Lv1:
- 最新技術やクラウドサービスの情報を簡単なレポートにまとめ、PMやNEと共有
- 企画段階で概算のサーバスペック・クラウドコストなどを試算
- Lv2:
- ナレッジベース・クラウドカタログが整備され、要件入力で必要な技術要素を自動検索
- 企画初期からシステム要件に対しフィージビリティスタディを行うフローが確立
- Lv3:
- AIがシステム構成候補を自動生成し、コスト・性能・冗長度などを比較し提案
- SEは要件との整合性を確認し、最適案を選ぶ
- Lv4:
- 完全自律型:要件を入れると最適なクラウドリソース・サービス構成が自動で決定され、PoCプランも生成
- SEは特殊要件や例外対応のみサポート
3.2 計画フェーズ
- Lv0:
- サーバ台数やミドルウェア選定、スケジュール策定は属人的にExcelでまとめる
- 必要リソースの手配やコスト試算も経験則に頼る
- Lv1:
- クラウド料金計算ツールやサーバスペック選定ツールを部分的に使用
- 計画書はWord/Excelで作り、関連部署と共有
- Lv2:
- インフラ要件(CPU/メモリ/ストレージ/ネットワーク等)を自動見積もりする仕組みを導入
- システム構成図の生成や連携システムへの通知がワークフロー化
- Lv3:
- AIが過去の負荷実績や伸び率を学習し、スケール計画やリソース割り当てを提案
- SEは予算や運用ポリシーと照らし合わせて最終調整
- Lv4:
- 完全自律型:計画段階でクラウドリソースが自動確保され、CI/CD連携も自動設定
- SEは大枠の最終承認や高レベルのアーキテクチャ方針設定のみ
3.3 設計フェーズ
- Lv0:
- サーバ・ミドルウェア構成をマニュアルベースで書き起こし、手書きで描いた図面を配布
- 設計レビュープロセスは会議で口頭ベース
- Lv1:
- IaC(Infrastructure as Code)の一部導入や、ドキュメントのテンプレート化
- アプリとインフラの整合性は担当者が調整
- Lv2:
- CI/CDやTerraformなどのツールで、インフラの設計・コード化を体系的に管理
- バリデーションツールが設定ミスや依存関係を自動検知
- Lv3:
- AIが最適なスケールプラン、障害対策を含むシステムアーキテクチャを提示
- SEは細部のパラメータや業務要件の最終反映を行うだけ
- Lv4:
- 完全自律型:要件を入力すれば、AIがアプリケーション構成・ミドルウェア選定・セキュリティ設計まで自動生成
- SEは特殊なレガシー連携や極端なパフォーマンス要件時のみ介入
3.4 構築フェーズ
- Lv0:
- OSインストール、ミドルウェア設定を一つずつ手動で実施
- 環境差異が発生しやすく、ドキュメント整備も不十分
- Lv1:
- スクリプトやChef/Ansibleなどの構成管理ツールを一部導入
- ただしテストや設定変更の大部分は手動
- Lv2:
- CI/CDでアプリケーションビルドからデプロイまで自動化し、複数環境へのデプロイ差異を最小化
- 構築作業のログや手順も自動的に記録
- Lv3:
- AIがテスト結果やリソースモニタリングを分析し、最適なチューニングを自動適用
- SEは本番リリース前の最終チェックが主業務
- Lv4:
- 完全自律型:サーバ調達(クラウドリソース含む)~ミドルウェア導入~アプリデプロイまで自動・動的に最適化
- SEは大規模障害時の緊急手動対応のみ
3.5 運用フェーズ
- Lv0:
- 人が定期的にサーバ負荷やログを確認し、異常があれば手動で対処
- パッチ管理やセキュリティ対応も属人的
- Lv1:
- 監視ツールやAPM(Application Performance Management)を導入し、アラートを一元管理
- ただしトラブルシュートは担当SEがコマンド操作
- Lv2:
- スケーリングやフェイルオーバーを自動化し、負荷の高いサーバを即時増強
- ログ解析もツールで行い、傾向分析を可視化
- Lv3:
- AIが異常値や根本原因を推定し、自動的にセルフヒーリング(再起動、コンテナ再配置など)を実施
- SEはセキュリティアップデートやポリシー変更のみ担当
- Lv4:
- 完全自律型:すべての運用監視・障害対応が自己完結し、最適なリソース割り当てもリアルタイムで行われる
- SEは大規模な変更方針の決定と例外対応のみ
3.6 保守フェーズ
- Lv0:
- ソフトウェアアップデートやサーバ交換は人がスケジュール管理し、手動で行う
- 稼働実績や障害履歴のデータ蓄積もバラバラ
- Lv1:
- 保守情報(バージョン、サポート期間など)をツールで整理
- 変更管理はチケットシステムで行うが、計画立案は主に担当者が行う
- Lv2:
- 稼働状況やログを分析し、更新時期を自動予測・アラート通知
- 保守手順(パッチ適用、DBマイグレーションなど)も自動化される部分が増える
- Lv3:
- AIが障害リスクやパフォーマンス低下を予測し、最適なバージョンアップやサーバリプレースを提案
- SEは影響範囲とコストを考慮しつつ承認・調整
- Lv4:
- 完全自律型:システム全体が自己認識し、事前にリソースを移行→パッチ適用→再配置まで無停止で実施
- SEは例外的状況下での判断と、システム全体の長期計画のみ管理
4. 建設エンジニア(CE)
建設エンジニアは、通信基地局の設置や交換機ルームの設備構築、光ファイバー工事など、物理的なインフラ構築に携わる職種です。主に通信事業者やインフラベンダーに多く在籍しています。
4.1 企画フェーズ
- Lv0:
- インフラ敷設や基地局新設の企画段階にはあまり参加せず、後から相談を受けて現場確認
- 必要工事のスケール感を感覚値で説明
- Lv1:
- 土地情報や過去の工事記録を参考に、初期段階で「実施可否」「工期目安」程度を報告
- 工事に関する制約やリスクをリスト化
- Lv2:
- 地理情報システム(GIS)や過去工事データベースを連携し、企画段階で最適な候補地やルートを自動提示
- 許認可に関する情報もシステムで参照
- Lv3:
- AIが地形・交通量・災害リスクを解析し、「ここに基地局を建設するとコスト&効果が高い」等のシミュレーション結果を提示
- CEは実現性の最終確認のみ
- Lv4:
- 完全自律型:新規インフラの必要性が発生すると、システムが地理情報・需要予測をもとに最適地を選定し、CEは承認のみ
- 許認可手続きや工事全体の概要設計も自動化
4.2 計画フェーズ
- Lv0:
- 工事スケジュールはエクセルで人力管理、資材手配や人員割り当ても別々の担当者依存
- 工事予算は現場経験ベースの概算見積もり
- Lv1:
- 工事管理ツール導入により、工程表・資材リストを共有化
- ただし詳細工期やコスト算出はCEの経験に頼る
- Lv2:
- 資材在庫・人員情報をリアルタイムで連携し、計画を自動最適化(工程の前後入れ替え等)
- 工事コストをシステムが概算し、CEが調整
- Lv3:
- AIが施工可能期間や最適なルート、複数現場とのリソース調整などを総合的に提案
- CEは承認と外部調整(自治体や関連業者)を担当
- Lv4:
- 完全自律型:工事計画(工程、資材、コスト、許認可申請など)をすべて自動策定
- CEは安全面と特殊ケースの最終審査のみ
4.3 設計フェーズ
- Lv0:
- 図面作成や配線計画、建物補強設計などを人手でCAD作図し、紙で共有
- ミスや設計変更が発生しやすく、やり直しが多い
- Lv1:
- 2D/3D CAD導入でデジタル化、ただし詳細設計・整合性チェックは人力
- 施工ノウハウはベテランエンジニアの頭の中
- Lv2:
- BIM(Building Information Modeling)やCADと連動し、設計変更時の影響範囲を自動検出
- 設計データがクラウドで一元管理され、関係者が同時閲覧・更新
- Lv3:
- AIが過去の工事データ・地質情報を解析し、最適な施工手順や資材選定を提案
- CEは提案内容をレビューし、現場特有の調整を行う
- Lv4:
- 完全自律型:建設要件を入力すれば、構造設計・材料選定・施工図面生成までシステムが自動化
- CEは国家規定や安全基準の最終チェックのみ
4.4 構築フェーズ
- Lv0:
- 現場作業は紙ベースの手順書、口頭連絡で進め、進捗や品質管理も人力
- 検査記録も写真・メモを個人が保管
- Lv1:
- タブレットやクラウドシステムで作業指示書を共有化
- 進捗報告や検査結果をオンラインでアップロードし、CEが手動で集約
- Lv2:
- 工事工程のワークフロー化:各作業完了がシステムに入力されると、自動的に次工程へ割り当て
- ドローンやIoTセンサーで進捗と品質をリアルタイム監視
- Lv3:
- ロボティクスで一部の自動施工や高所作業を実施し、AIが施工精度をチェック・補正指示
- CEは特殊部位や検査の最終立ち合いに注力
- Lv4:
- 完全自律型:大型機械・ロボットが図面データをもとに建設を自動進行し、検査・測量まで行う
- CEは監査レベルで安全確認・承認のみ
4.5 運用フェーズ
- Lv0:
- 建設エンジニアは通常、運用フェーズには深く関わらない(運用担当に引き継ぎ)
- 設備トラブルがあれば都度呼ばれ対応
- Lv1:
- 定期点検や現場巡回を人力で実施し、気づいたことを報告書にまとめる
- 設備異常の連絡を受け、図面を引っ張り出して調べる
- Lv2:
- 設備にセンサーを取り付け、稼働状況や劣化状況をリモート監視
- 点検日時をシステムがスケジュール化し、CEが現場訪問
- Lv3:
- 異常値や故障リスクをAIが予測し、CEに点検指示を自動発行
- 部分的な軽微修繕は現地ロボットや第三者業者が対応
- Lv4:
- 完全自律型:設備の自己診断により、問題が起きる前に自動修理やパーツ交換が実施される
- CEは大がかりな修繕や拡張工事の必要性を判断するのみ
4.6 保守フェーズ
- Lv0:
- 老朽化した設備の交換計画は実際に現場を見て判断し、Excelで管理
- コストや工期は経験値に頼る
- Lv1:
- 設備台帳や耐用年数をシステム管理し、交換時期をリストで可視化
- 計画立案はCEが過去データを参考に手動で策定
- Lv2:
- 劣化状況・使用頻度・稼働年数などを自動集計し、最適な保守スケジュールをシステムが提案
- CEが優先度を判断し、具体的に工事日程を組む
- Lv3:
- AIが予兆データや過去の故障パターンを学習し、リプレース・補修のベストタイミングを提示
- 必要な資材・人員・コストも自動試算
- Lv4:
- 完全自律型:設備が自己診断し、リプレース工事の計画・実行までロボットとシステムが全自動で実施
- CEは現場の大きな変更方針や許可申請などを最終判断
5. ネットワーク運用者(NO)
ネットワーク運用者は、ネットワークが稼働している状態での監視・保守・障害対応などを担当するポジションです。ネットワークエンジニアが設計・構築した環境を、安定して稼働させるための“最前線”で活躍します。
5.1 企画フェーズ
- Lv0:
- 普段は企画段階にほぼ関与せず、正式決定後に運用体制を考え始める
- 要件へのフィードバックも口頭ベース
- Lv1:
- 運用コストや監視要件について、企画初期から簡易見積もりを提出
- 既存運用との整合性リスクを簡単に提示
- Lv2:
- 新サービス企画時に、運用監視ツールや要員体制を自動試算する仕組みが整備
- NOは運用観点からのリスクや工数を可視化
- Lv3:
- AIが既存インフラのデータを参照し、追加運用コスト・監視範囲を算出・提案
- NOは運用ポリシーや人員計画を微調整
- Lv4:
- 完全自律型:企画が決定すると運用設計まで自動生成され、NOは最終承認のみ
- 運用チームの人員配置もシステムが最適化
5.2 計画フェーズ
- Lv0:
- 監視項目や障害対応フローをExcelでまとめ、運用手順書もバラバラ
- 運用開始後に多くの抜け漏れが発生しがち
- Lv1:
- チケットシステムや運用マニュアルの整備により、基本的な対応フローを定義
- 運用設計会議で関係者と口頭で調整
- Lv2:
- 運用設計テンプレートを活用し、新サービス追加時に必要な監視項目・障害対応を自動生成
- NOは固有の要件を追加・修正
- Lv3:
- AIが過去の障害履歴や運用負荷を学習し、計画段階で運用リスクを自動評価・対策提案
- NOは必要な人員数やスキルセットを調整
- Lv4:
- 完全自律型:新しいサービスや機能追加時、運用監視・エスカレーションフローがシステムにより自動生成・最適化
- NOは最終的な承認だけ行う
5.3 設計フェーズ
- Lv0:
- どのMIBを監視するか、どのログを取るかなど、すべて担当者が口頭やメモで決定
- 設計ドキュメントを作っても更新が追いつかない
- Lv1:
- 監視ツールで使うテンプレートがあり、基本的な項目は自動設定
- ただしサービス固有の項目追加などは人力で行う
- Lv2:
- 運用設計ツールとネットワーク設計ツールが連携し、機器ごとの監視ポリシーを自動生成
- アラート閾値や通知先もワークフロー化して管理
- Lv3:
- AIがサービス特性や機器の状態を学習し、最適な閾値や障害切り分けパターンを設定
- NOは例外ケースや特殊要件を追加
- Lv4:
- 完全自律型:新しい機器やサービスが追加されると、監視設計・ログ設定・アラート対応策まで自動生成
- NOは運用ポリシーの大枠を決めるだけ
5.4 構築フェーズ
- Lv0:
- 監視ツール、チケットシステムのセットアップを手動で行い、試験も人力
- リリース時に運用開始できるかどうか直前まで不透明
- Lv1:
- スクリプトやツールを使い、監視エージェント導入やチケット連携を部分的に自動化
- しかし細かいチューニングはNOが実施
- Lv2:
- 運用環境の構築手順をCI/CDパイプライン化し、監視設定やチケットフローのテストを自動実行
- 構築結果のドキュメント化もシステムが自動生成
- Lv3:
- AIが監視設定テストの結果を分析し、エラーを修正・最適化
- NOは最終的なリリース判定とポリシー調整
- Lv4:
- 完全自律型:新サービス追加時、運用・監視環境も同時に自動構築・検証が完了し、NOの介入なしに運用開始
- NOは全体を見守る監査的ポジション
5.5 運用フェーズ
- Lv0:
- 監視画面を常時目視し、障害が発生すると手動で対処
- 手順書参照やログ確認も人の経験頼り
- Lv1:
- 監視ツールで障害を検知するとチケットが自動発行される
- 一次対応は運用者がマニュアルどおりに実施
- Lv2:
- オーケストレーションやスクリプトで一次対応(サービス再起動、リソース切り替えなど)を自動化
- NOは二次対応や原因調査に集中
- Lv3:
- AIが過去のログやパターンを学習し、セルフヒーリングを実施(障害自動復旧、負荷分散、自動スケール)
- NOは運用ポリシーや大型障害時の調整を担当
- Lv4:
- 完全自律型:ネットワーク・システムが自己最適化と自己修復を常時実施し、障害影響を最小限に
- NOは極めて特殊なケースのみ手動対応
5.6 保守フェーズ
- Lv0:
- 障害や問題があれば都度対応する“事後保守”が基本
- バージョンアップや交換時期は担当者が感覚で判断
- Lv1:
- 定期メンテナンススケジュールを作成し、都度手動で対応
- ハード・ソフト更新情報を運用者がベンダーからメールで取得
- Lv2:
- 運用データ(稼働率、障害頻度など)をシステムが集計し、保守タイミングを自動アラート
- NOは計画的に予防保守を実施
- Lv3:
- AIが各機器やソフトの異常兆候を事前検知し、保守・交換作業を提案
- NOは承認やリソース手配、メンテ作業手順の最終確認
- Lv4:
- 完全自律型:システムが異常や老朽化を見越して自動的に部品交換・バージョンアップを実行し、サービス影響を最小化
- NOは保守方針の立案や重大変更の最終承認のみ
まとめ
上記のように、「職種 × フェーズ」ごとにLv0(完全手動・属人的)からLv4(完全自律・AIフル活用)までを定義すると、業務プロセスのどこを自動化・デジタル化すればよいかが明確になります。実際には、職種やフェーズによって自動化レベルにばらつきが出るケースが多いですが、最終的にLv4を目指すことでヒューマンエラー削減や効率化、高品質なサービス提供が可能になります。
- プロダクトマネージャー: 企画・計画といった上流工程でのデータ分析やAI提案活用
- ネットワークエンジニア: ネットワークの設計・構築・運用のオーケストレーションやクローズドループ制御
- システムエンジニア: サーバ・アプリケーションのIaCやCI/CDをベースとした自動化・セルフヒーリング
- 建設エンジニア: 物理インフラ・設備工事におけるロボティクスやBIM、IoTを使った自動施工
- ネットワーク運用者: 監視・障害対応・保守のセルフヒーリングやAI予兆検知
自社がどのフェーズ・どの職種でどのレベルにいるのかを把握した上で、優先度の高い部分から段階的に自動化を進めることが、DX(デジタルトランスフォーメーション)成功の大きなポイントです。