こんにちは。ITコンサルタントのわさおです。
今回はアジャイル開発の考え方・手法について解説したいと思います。
入門編ということで、アジャイル開発のことが全く分からない人でも理解できるように一から説明します。ある程度、知識がある人は、好きなところから読み進めていただいて構いません。
1. アジャイル開発とは何か
まず、「アジャイル(Agile)」の意味ですが、これは「素早い」とか「機敏な」という意味になります。つまり、アジャイル開発とは、スピードを重視した開発手法ということになります。
ちなみに、アジャイル開発というと、ソフトウェア開発を思い浮かべる人が多いかと思いますが、ビジネスの他の領域にも応用することが可能です。実際、デジタルマーケティングや新規事業の立ち上げなど、成果を早めに出して検証を繰り返す必要がある領域では、アジャイルの考え方が非常に有効です。
ですので、「アジャイル」は、テクノロジーに限った話ではなく、「方法論」もしくは「哲学」として捉えるほうが正しいと言えます。ただし、この記事では、ソフトウェア開発としての「アジャイル開発」を説明しますので、ご了承ください。
よく「アジャイル開発」と対比される開発手法が「ウォーターフォール開発」です。それぞれの特徴をいくつか挙げてみたいと思います。
ウォーターフォール開発
- 大規模な開発体制になりやすい
- 開発工程を1つずつ順番に進めていく
- 基本的に前工程に戻ることは出来ない
- 開発要件を初期段階で確定させる
- 大規模なシステム開発で特に採用されやすい
アジャイル開発
- 10人程度の小規模な開発体制になりやすい
- リリースまでのスピードを重視
- リリースと改善を継続的に繰り返す
- 要件は流動的であると考え、変化に対応する
- スピード重視の企業やソフト/アプリで特に採用されやすい
ウォーターフォールは、「計画~開発~リリース」までの工程を一つずつ進めていき、1回のサイクルで完成を目指すのに対して、アジャイル開発は、「計画~開発~リリース」のプロセスを継続的に何度も回すことになります。
これらは考え方の違いのため、どちらが優れているというわけではありません。あくまでもプロジェクトや開発規模・種類によって、適切な手法は異なると考えたほうが良いです。大規模な基幹システムのように、変更を最小限にして一度に大きな成果物をリリースする必要がある場合はウォーターフォールが選ばれやすいですし、ユーザーの反応をこまめに確認しながら小さい単位でリリースを繰り返していきたい場合はアジャイルが向いています。
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2. アジャイル 12の原則
アジャイル開発を語るうえで、まず覚えておきたいのが「アジャイル宣言(Manifesto for Agile Software Development)」と呼ばれる文書です。これは、2001年に複数のソフトウェア開発者によってまとめられたもので、4つの価値観と12の原則から成り立っています。ここでは、アジャイルの根幹をなす「12の原則」を一つずつ取り上げて解説します。
- 顧客満足を最優先し、価値のあるソフトウェアを早く継続的に提供する
アジャイル開発の基本的な考え方として、常に「顧客を最優先する」という点が挙げられます。顧客が求める価値をいち早く提供し、実際に使ってもらってフィードバックを得ることで、さらに改良を重ねていくのがアジャイルの特徴です。 - 要求の変更はたとえ開発の後期であっても歓迎する
従来のウォーターフォール型の開発では、仕様を初期段階でしっかり固め、後からの変更は極力避けるのが基本でした。しかし、顧客のニーズや市場は常に変化し続けます。アジャイル開発では、要求変更を前提とし、それを柔軟に受け入れる体制を整えておくことが重要です。 - 動くソフトウェアを、2-3週間から2-3ヶ月というできるだけ短い時間間隔でリリースする
アジャイル開発では、小さな単位での開発とリリースを頻繁に行います。これによって早期にユーザーの反応を確認し、間違った方向に進んでいる場合はすぐに軌道修正することができます。短期間でのリリースサイクルを回すことで、開発チームもモチベーションを維持しやすく、顧客にも進捗を分かりやすく伝えられます。 - ビジネス側の人と開発者は、プロジェクトを通して日々一緒に働く
アジャイルにおいては、開発チームだけではなく、プロダクトオーナー(顧客やビジネスサイドに近い立場の人)をはじめとするステークホルダーも、プロジェクト全体を通じて深く関与します。要求や仕様のすり合わせを継続的に行うことで、常に「本当に必要なもの」にフォーカスしながら開発を進められます。 - 意欲に満ちた人々を集めてプロジェクトを構成する。環境と支援を与え、仕事が無事終わるまで彼らを信頼する
アジャイルでは、チームメンバー一人ひとりの自主性を重視します。モチベーションの高い人材を揃え、彼らが最大限にパフォーマンスを発揮できるような環境(ツールやコミュニケーション手段など)を整え、チームを信頼することが求められます。 - 情報を伝える最も効率的で効果的な方法は、フェイス・トゥ・フェイスで話をすること
電子メールやチャットツールなど、リモートコミュニケーションが主流となっている現代ですが、アジャイルの考え方では、実際に顔を合わせるコミュニケーションが最も効率的かつ効果的であるとされています。可能なかぎり口頭で素早く共有し、疑問点を即座に解消することが、開発のスピードアップにもつながります。 - 動くソフトウェアこそが進捗の最も重要な尺度
ドキュメントや報告書の量ではなく、実際に動くソフトウェアをどの程度完成させたかが重要視されます。これにより、机上の空論や過度な書類作成に費やす時間を最小限に抑え、本質的な価値を提供する開発へと集中できます。 - アジャイル・プロセスは持続可能な開発を促進し、一定のペースを継続的に維持する
アジャイルでは、短いスプリント(開発期間)の後に必ず休みを取るわけではありません。むしろ、過度な残業に頼らず、開発チームが疲弊しない範囲で生産性を維持できるペースを見つけ、それを継続することが大切です。長期間にわたって安定した成果を出すためにも、チームの健康や労働環境を考慮したペース配分が必要です。 - 技術や設計をレベルアップさせる意識が、俊敏(アジャイル)さを高める
俊敏性を保つためには、コード品質や設計の柔軟性を高める必要があります。開発途中での仕様変更に耐えうるコード構造や、テストの自動化、継続的インテグレーション(CI)などのプラクティスを積極的に採り入れ、技術的負債をため込まないよう心がけることが重要です。 - シンプルさ(ムダなく作れる量を最大限にすること)が本質です
複雑さをできるだけ排除し、必要な機能や価値に集中する姿勢がアジャイルの根底にあります。最低限必要な部分にフォーカスして早くリリースし、実際のユーザーの反応を踏まえた上で追加実装や改善を行うことで、無駄なコストや開発時間を削減できます。 - 自己組織化したチームのメンバーが協調して動く方が、パフォーマンスが高い
アジャイルでは、チームが自律的にタスクを管理し、互いに協力し合って開発を進めるのが基本です。チーム内で明確な役割や責任分担を行いつつ、全員がフラットな立場で提案や改善を行える環境を整えると、チームワークが高まりスムーズに開発が進みます。 - 定期的な「ふり返り」により、開発チームのパフォーマンスをより高めるようにする
アジャイルではスプリント(短い開発期間)の最後に必ず「レトロスペクティブ(ふり返り)」を行い、何がうまくいったのか、何を改善すべきかをチーム全員で確認します。これによって、継続的にプロセスやコミュニケーションを改善し、開発効率と品質を引き上げることができます。
3. アジャイル開発の代表的なフレームワーク
アジャイル開発の現場では、さまざまなフレームワークや手法が活用されています。代表的なものとしては、以下のようなものがあります。
Scrum(スクラム)
最も一般的なアジャイルフレームワークで、1~4週間程度のスプリントを繰り返しながら開発を進めます。プロダクトオーナー、スクラムマスター、開発チームといった明確なロールを定義し、デイリースクラムなどの定期的なミーティングを通じて進捗を管理します。
Kanban(カンバン)
トヨタ生産方式にルーツを持つ「カンバン方式」をソフトウェア開発に応用したもので、タスクを「To Do」「Doing」「Done」などのステータスに分けて可視化し、タスクフローを継続的に改善します。スクラムほどの厳密なイベントは設定せず、流動的にタスクを進めたい場合に有効です。
XP(エクストリーム・プログラミング)
テスト駆動開発(TDD)やペアプログラミングなど、プログラミングの実践的な手法に重点を置いたフレームワークです。コード品質を高めるプラクティスが多く、特に開発者の視点でメリットが大きいとされています。
4. アジャイル開発のメリット・デメリット
アジャイル開発には多くのメリットがありますが、一方で注意すべき点も存在します。ここでは主なメリットとデメリットを挙げてみます。
メリット
- 顧客満足度の向上
早期リリースと継続的なフィードバックにより、顧客のニーズに的確に応えやすくなります。 - リスク低減
小さな単位で成果物をリリースして検証を行うため、途中で大きな方向転換を行う際のリスクを抑えられます。 - チームのモチベーション向上
こまめに進捗が可視化され、短いスパンで成果が確認できるため、開発チームがやりがいを感じやすくなります。 - 柔軟性と迅速な対応
市場や顧客の変化に合わせて開発内容を見直すことができるため、競合他社と比べてスピーディにサービスを提供できます。
デメリット
- 仕様が固まりにくいプロジェクトでは混乱が生じやすい
常に要求変更が起こる前提のため、初期段階で明確な仕様書や設計書がないことに不安を感じるステークホルダーもいます。 - スケジュール管理の難しさ
短いスプリントを繰り返す場合、外部要因でタスクが遅延するなどのトラブルに直面すると全体計画がずれやすくなります。 - チームの成熟度が求められる
自己組織化や自律性を重視するため、ある程度の経験やスキルを持ったメンバーが揃っていないと十分に機能しません。 - コミュニケーションコストの増大
顧客やビジネスサイドとの頻繁なやり取り、開発チーム内での話し合いなど、コミュニケーションにかける時間が増える傾向があります。
5. アジャイル開発を成功させるポイント
アジャイル開発を実践するときには、単に手法やフレームワークを導入するだけでなく、組織文化やコミュニケーションの取り方など、さまざまな要素が影響します。以下に、アジャイル開発を成功させるための主なポイントを挙げてみます。
- 顧客(もしくはプロダクトオーナー)との密な連携
要求事項やビジネス上の優先度を常に共有しておくことが重要です。リリースのゴールや成果物の価値を明確にすることで、開発チームも何を優先すべきか迷わなくなります。 - 小さな成功体験を積み重ねる
スプリントの度に小さなリリースを行い、成功体験を積むことで、チーム内外からの信頼を得ることができます。まずはミニマムバイアブルプロダクト(MVP)を目指し、少しずつ機能追加や改善を行いましょう。 - ふり返り(レトロスペクティブ)を重視する
定期的にスプリントの成果や課題を見直し、次のサイクルで改善を試みることがアジャイルの肝となります。チーム内で建設的なフィードバックを行い、プロセスやコミュニケーションの問題点を継続的に解決していく姿勢が必要です。 - チームの自律性と自己組織化を促進する
スクラムマスターやプロダクトオーナーが過度に指示を出しすぎると、メンバーが受動的になりがちです。チーム全員が主体的に課題を拾い、解決策を提案し合うことで、柔軟かつ高効率な開発が実現します。 - ツールやプロセスを状況に合わせてカスタマイズする
Scrum、Kanban、XPなどのフレームワークをそのまま導入するのではなく、プロジェクトや組織の事情に合わせて取捨選択しながら運用すると良いでしょう。たとえば、遠隔地のメンバーが多い場合はオンラインツールを駆使したコミュニケーションを重視するなど、柔軟な対応が必要です。
6.アジャイル開発における役割
6-1. プロダクトオーナー(Product Owner, PO)
プロダクトバックログの作成・優先順位付け
・ユーザーストーリー(機能要求や要件)を洗い出し、バックログを作成する
・ビジネス的価値やユーザーのニーズを考慮して優先順位を決定する
ビジョンや目標の提示
・プロダクトの方向性や目標を示し、開発チームが何を実装するべきか明確にする
・仕様に関する質問や疑問に対して回答し、要件を調整する
ステークホルダーとの調整・コミュニケーション
・顧客、経営層、他部署など利害関係者と調整し、必要な情報を開発チームに伝達する
・スプリントレビューなどで成果物を確認し、フィードバックを集める
2. スクラムマスター(Scrum Master, SM)
スクラムプロセスの推進・支援
・スクラムの理論やプラクティスをチームに理解させ、適切に運用できるよう支援する
・チーム内のコミュニケーションやコラボレーションを促進する
障害・インピーダンスの排除
・開発がスムーズに進むように、チームが抱える問題を発見し、解決に向けたサポートを行う
組織へのスクラムの浸透
・スクラムのメリットを組織やステークホルダーに伝え、協力を得られるよう働きかける
3. 開発チーム(Development Team, Dev Team)
実装(インクリメント)の提供
・ユーザーストーリーやスプリントゴールをもとに、製品・サービスの機能を実装する
・動くソフトウェア(インクリメント)をスプリントごとに完成させ、リリース可能な状態にする
自己組織化・コラボレーション
・誰がどのタスクを行うか、どうやって進めるかをチーム内で自律的に決定する
・メンバー同士で協力し、タスクの進捗を共有・フォローし合う
品質確保
・コードレビューやテスト、リファクタリングなどにより、品質を保ちながら開発を進める
4. その他のステークホルダー(オプション)
ビジネスアナリスト、UXデザイナー、QAエンジニアなど
・プロダクトバックログの作成や要求分析でPOをサポートしたり、仕様策定やテストに関わる
・開発チームの一部として振る舞う場合もあれば、外部からの支援者として参画する場合もある
経営層や他部門の管理職
・プロダクトのビジョンや優先度に影響を与える利害関係者として、随時POやSMと情報交換を行う
・リソース調整や予算管理、プロジェクト全体の方針策定に関わる
7.スプリントにおける具体的な動き方
スプリント計画(Sprint Planning)
次のスプリント(1~4週間程度)で何を完成させるかを決める会議。成果物、スコープ、タスクを明確化する。
プロダクトオーナー
・開発チームと協力して、スプリントのゴールを設定
・スプリントで着手するユーザーストーリーを選定し、優先度や受け入れ条件(Acceptance Criteria)を明確化
スクラムマスター
・開発チームが毎日のスタンドアップで進捗を共有し、今日の作業と課題を明確化できるよう促進
開発チーム
・プロダクトオーナーが提示するスプリントゴールやユーザーストーリーを理解し、見積りやタスク分解を行う
・実現可能な範囲を合意し、スプリントバックログを確定させる
デイリースクラム(Daily Scrum)
チーム内で進捗を共有し、問題・課題を早期に可視化して対応を検討する。
スクラムマスター
・開発チームが毎日のスタンドアップで進捗を共有し、今日の作業と課題を明確化できるよう促進
・課題やブロッカーをすぐに共有し、対応方針を検討するきっかけを作る
開発チーム
・前日の成果・当日の予定・課題を共有し、チーム内の進捗を可視化
・ブロッカーとなっている課題に対しては、スクラムマスターと連携して解決を図る
スプリントレビュー(Sprint Review)
スプリントの終わりに行うイベント。完成した機能の確認・デモ、フィードバックの収集を行う。
プロダクトオーナー
・実装された成果物をレビューし、受け入れ基準を満たすか判断
・ステークホルダーとともに成果物に対するフィードバックを与え、次の改善点などを検討
スクラムマスター
・レビューが円滑に進むように場を設計し、ステークホルダーとのやりとりをサポート
・フィードバックを受ける体制を整え、必要な情報をまとめ
開発チーム
・完了した機能をデモできるように準備し、実装内容をステークホルダーに説明する
・フィードバックをもとに、次のスプリントでの改善点を検討
レトロスペクティブ(Sprint Retrospective)
スプリントを振り返り、チームの働き方を改善する。
スクラムマスター
・チームが開発プロセスやコミュニケーションを振り返り、改善点を洗い出す場を提供
・次のスプリントで取り組む改善アクションを具体化し、実行を促進
開発チーム
・スプリントの振り返りを行い、プロセス改善や技術面の改善案を出し合う
・今後のスプリントに向けてアクションアイテムを設定し、実行をコミット
8. まとめ
アジャイル開発は「素早く、小さくリリースして、改善を継続していく」ことを重視した開発手法です。ウォーターフォールと対比されることが多いですが、どちらか一方が絶対的に優れているというわけではなく、プロジェクトの目的や性質に応じて使い分けるべきものです。ただし、現代のIT業界やWebサービスの領域においては、リリーススピードや柔軟性を求められることが多いため、アジャイル開発が適しているケースが増えてきています。
また、アジャイルの本質は、単なる「スピード重視」ではありません。顧客と密に連携して価値を提供し続ける姿勢、変化に柔軟に対応するチーム文化、そして定期的にふり返って改善を重ねるプロセスこそが、アジャイルの核となる考え方です。ソフトウェア開発の枠を超えて、ビジネスやチームマネジメント全般に活かせる哲学的要素も多いため、アジャイルの考え方を深く理解し、実践できることは今後ますます重要になっていくでしょう。
もしこれからアジャイル開発を導入しようと考えているのであれば、まずは小さなプロジェクトや短期間のスプリントで試してみて、少しずつ自社やチームに合った方法をカスタマイズするのがおすすめです。スクラムマスターやアジャイルコーチなど、導入をサポートしてくれる専門家の力を借りることも効果的です。
今後もアジャイル開発は、ビジネスのスピード感や顧客ニーズの多様化に対応するうえで、欠かせない手法のひとつとして位置付けられていくでしょう。本記事をきっかけに、ぜひアジャイルの世界に一歩足を踏み入れてみてください。継続的な改善と学習のサイクルを回し続けることで、ビジネスと開発の両面で新たな可能性が広がるはずです。
参考書籍
アジャイル開発をこれからやる人におすすめの本です。漫画も入っていてわかりやすいので、是非読んでみてください。
