【TM Forum】OSS(Operations Support System)の機能をMECEの視点で整理する

こんにちは。わさおです。

この記事では、TM Forum(旧 TeleManagement Forum)のOSS(Operations Support System)における主な機能や領域を、MECEで整理してみます。OSSは通信事業者にとってネットワークやサービスの運用を担う重要な領域であり、TM Forumのフレームワーク(eTOM、SID、TAMなど)は、その標準的なプロセス・データモデル・アプリケーションマップを提供することで、業界全体の効率化を支援しています。本記事ではそれらを大枠で整理しつつ、OSS機能を網羅的にまとめます。

1. はじめに

1-1. TM Forumとは

TM Forum(旧 TeleManagement Forum)は、通信事業者やソリューションベンダーなどが参加する業界団体です。主に以下のようなフレームワークや標準仕様を提供し、通信事業のビジネス・運用プロセスの効率化、データモデルの共通化を推進しています。

  • eTOM (enhanced Telecom Operations Map): ビジネス・運用プロセスのフレームワーク
  • SID (Shared Information/Data model): 共通データモデル
  • TAM (Telecom Applications Map): アプリケーションの参照アーキテクチャ
  • Open APIs: 各種サービスやアプリケーション連携のためのAPI仕様

1-2. OSSの重要性

通信事業におけるOSSは、主にネットワークやサービスの運用・監視・保守を担い、BSS(Business Support System)と連携しながら、エンドユーザにサービスを提供する上で欠かせない役割を果たします。ネットワークの複雑化やクラウドネイティブ化が進む現在、OSS領域でもSDN/NFVや5G対応、クラウドインフラ管理などが求められており、TM Forumのガイドラインに沿った形で進化を続けています。

2. OSSの7領域について

本記事では、TM Forumが定義するeTOMなどを参考にしながら、OSSに必要な機能を次のように大まかに7つの領域に分けて整理してみます。

それぞれの領域が相互に連携することで、通信事業者としての運用業務全体が円滑に回る仕組みを構築します。以下では、各領域の機能と役割について詳しく見ていきます。

3. OSSの主要領域と機能

3-1. ネットワーク/リソース管理 (Resource Management & Control)

ネットワーク機器や仮想リソース(NFV、クラウドインフラなど)を含む、リソースの稼働状況・容量・構成を管理する領域です。ネットワークトポロジーを把握し、経路制御や帯域制御を実行します。

ネットワークトポロジー管理(Network Topology Management)

・ネットワーク内にあるスイッチ、ルータ、光伝送装置、無線基地局などの機器がどのように接続され、どんな経路で通信が流れるかを一元的に把握・管理する機能です。

・視覚的なトポロジーマップや、各機器間のリンク情報を正確に把握することが運用の第一歩となります。

リソースキャパシティ計画 (Capacity Planning)

・ネットワークやサーバ、ストレージなどのリソースが、現在および将来のトラフィック需要に対して十分に対応できるかを計画する機能です。

・トラフィックのピーク時にも品質が低下しないようにするため、どれくらいの帯域やリソースをいつまでに増設するかなどを検討します。

設定管理 (Configuration Management)

・ネットワーク機器や仮想化リソース(VM、コンテナなど)の各種設定(パラメータ、ファームウェアバージョン、ソフトウェア設定)を一元管理する機能です。

・設定の変更履歴を追跡し、誤った変更があった際のロールバックや、セキュリティ/コンプライアンス面の監査にも活用されます。

SDN制御 (Software Defined Networking)

・従来のネットワーク機器が持っていた制御機能(ルーティングやスイッチングのルールなど)を、ソフトウェア(SDNコントローラ)で集中管理するアーキテクチャです。

・SDNコントローラからAPIやプロトコル(OpenFlowなど)を使って機器を制御し、柔軟な経路変更や帯域制御が可能になります。

NFV管理 (Network Functions Virtualization)

・ルータ、ファイアウォール、ロードバランサーなど、本来ハードウェア機器として提供されていたネットワーク機能(Network Functions)を、汎用サーバ上のソフトウェアとして仮想化する技術です。

・NFV管理は、これらの仮想化されたネットワーク機能(VNF)のライフサイクル(デプロイ、スケーリング、アップグレード、削除など)を管理・制御する領域を指します。

3-2. サービス設計・プロビジョニング (Service Fulfillment)

新規サービスの企画・設計から、ユーザへの実際のサービス提供開始までをサポートする領域です。具体的には、通信事業者の管理する通信ネットワークの構築業務に必要なネットワークの設計・設定・試験の機能を提供します。オーダー管理やサービスアクティベーションなど、BSSから引き継いだ情報をもとに自動化されたプロビジョニングを行います。

サービス設計 (Service Design)

・新しい通信サービスやアプリケーションをどのような構成で実現するかを検討・定義する機能です。

・ネットワーク機能やプラットフォーム、課金モデルなど、サービス提供に必要な要素を全体設計します。

オーダー管理 (Order Management)

・ユーザ(顧客)からの新規契約やサービス変更の注文を受け付け、それをサービス提供の各プロセスに連携させる機能です。

・BSSとの連携で課金・契約情報を受け取りつつ、OSSのプロビジョニング手続きをキックオフします。

サービスアクティベーション (Provisioning & Activation)

・実際にネットワーク機器やシステム上で利用者向けのサービスを有効化するプロセスです

・設定変更や回線の開通、アカウントの作成など、様々な操作を自動あるいは半自動で行います。

変更管理 (Change Management)

・OSSやネットワーク、サービス構成に変更を加える際のプロセスを統制・管理する機能です。

・変更前後のリスク評価、承認フロー、テスト・リリース計画などを標準化し、運用品質を維持します。

カタログ管理 (Service Catalog)

・通信事業者が提供するサービスやプランをひとつの「カタログ」として整理・管理する機能です。

・顧客に提示するプランやオプションの内容、利用できるネットワーク機能などを体系立てて定義します。

3-3. サービス品質・障害管理 (Service Assurance)

提供中のサービスの品質を監視し、障害発生時にはアラームを検知・分析して早期復旧を支援する運用保守業務に必要となる監視機能を提供する領域です。SLA(Service Level Agreement)を達成するためのパフォーマンス管理も含まれます。

障害管理 (Fault Management)

・ネットワーク機器やサービス上で発生する障害を検知・通知・解析・復旧するプロセスです。

・障害アラームの収集や優先度の判定、影響範囲の特定、エスカレーションなどを包括的に扱います。

パフォーマンス管理 (Performance Management)

・ネットワークやサービスが想定どおりの性能を発揮しているかを監視・分析する機能です。

・帯域使用率、遅延、パケット損失率などのメトリクスを継続的に収集し、ボトルネックを検知します。

SLA管理 (SLA Management)

・通信事業者と顧客の間で取り決めるサービスレベルアグリーメント(SLA)を管理・履行する機能です。

・サービス稼働率や遅延などの品質指標を遵守しているかをモニタリングし、違反があれば報告やペナルティ適用などの処理を行います。

サービスレベル監視 (Service Quality Monitoring)

・上記のパフォーマンス指標や障害情報だけでなく、ユーザ体感レベルの品質を俯瞰的にモニタリングする機能です。

・特定のサービス(VoIP、動画配信、企業VPNなど)ごとに品質指標を収集し、リアルタイムで分析します。

レポーティング・分析 (Reporting & Analytics)

・障害履歴やパフォーマンス指標など、OSSで収集した大量のデータをレポート化・可視化・分析する機能です。

・定期的なレポート配信やリアルタイムダッシュボード、AI/MLを活用した高度な解析などが含まれます。

3-4. インベントリ管理 (Inventory Management)

ネットワーク機器や仮想リソース、サービス構成要素など、物理的・論理的リソースを一元的に管理する領域です。どのリソースがどのサービスや契約に紐づいているか、正確に把握することで保守・運用効率を高めます。

物理在庫管理(機器、ラック、ケーブルなど)

通信設備を構成する物理的な要素(ルータ、スイッチ、ラック、ケーブル、アンテナなど)を在庫として一元的に把握し、どの拠点にどんな機器が配置されているかを管理する機能です。

論理在庫管理(仮想化リソース、IPアドレスプールなど)

仮想サーバ、コンテナ、ネットワークセグメント、IPアドレスプールなど、物理機器上に論理的に割り当てられるリソースを在庫として管理する機能です。

リソース関連性管理 (Resource Relationship)

物理・論理リソース同士の接続・依存関係を体系的にモデル化し、どの機器がどのサービスや他のリソースに紐づいているかを管理する機能です。

ライフサイクル管理 (Lifecycle Management)

リソースが導入されてから廃棄されるまでの全期間を通じた状態変化(導入、稼働、更新、移設、廃棄など)を管理し、適切なタイミングでアクションを行う機能です。

3-5. オーケストレーション・自動化 (Orchestration & Automation)

マルチベンダー環境やクラウド環境を含む複雑なネットワーク構成を一元的に制御し、自動的にサービスをプロビジョニング・スケーリングするための仕組みです。SDN/NFVの登場により、オーケストレーションの重要性が増しています。

オーケストレーション (Orchestration)

・ネットワークやサービスを構成する複数の要素(物理・仮想リソース、アプリケーション、クラウド環境など)を一元的に制御し、連携させる仕組みです。

・サービスの設計・プロビジョニングから運用監視・拡張まで、複雑なプロセスを一つのワークフローとして扱い、全体最適を図ります。

ネットワーク全体のEnd to End Orchestratorやネットワークドメイン単位でのDomain Orchestrator、ドメイン内のリソース単位のResource Orchestrotorなどがあります

ワークフロー自動化 (Workflow Automation)

・ネットワーク設定やインシデント対応、サービスアクティベーションなど定型的な作業手順を自動化する機能です。

・担当者間のハンドオーバーや承認フローまで含めて、一連の手順をシステムが管理・実行します。

ポリシーベース制御 (Policy-based Control)

・組織やサービスごとに定義されたルール・ポリシーに基づいて、ネットワークやシステムリソースを自動的に制御する方式です。

・トラフィック優先度や帯域割り当て、セキュリティポリシーなどをあらかじめ定義し、条件に応じて最適なアクションを実施します。

DevOps連携 (CI/CDパイプラインとの連携)

・ネットワークやサービスの新機能開発・テスト・リリース・運用を、一貫したパイプライン(CI/CD)に組み込み、ソフトウェア開発のDevOps手法と連携させる取り組みです。

・OSSとソフトウェアリポジトリ・テストツール・監視システムを統合することで、ネットワーク構成変更やサービス更新を継続的かつ安全に実施します。

3-6. セキュリティ・アクセス管理 (Security & Access Management)

ネットワークやサービスを安全に運用するためのセキュリティポリシー管理、認証・認可を行う領域です。近年はDDoS攻撃対策やゼロトラストアーキテクチャの導入も重要となっています。

アクセス制御 (Identity & Access Management)

・システムやネットワークにアクセスできるユーザやアプリケーションを認証・認可し、権限を管理する仕組みです。

・ログイン情報、ロール(役割)設定、パスワードポリシーなど、全社横断的なセキュリティ基盤として運用されます。

セキュリティ監視 (Security Monitoring)

・ネットワークやシステムのログ、イベントをリアルタイムで監視し、異常や不審な挙動を早期に検知する機能です。

・SIEM(Security Information and Event Management)ツールなどを活用し、多様なイベントを集約・分析します。

攻撃検知・防御 (Intrusion Detection/Prevention)

・不正アクセスやマルウェア、DoS攻撃など外部・内部からの脅威を検知し、必要に応じて遮断・隔離などの防御措置を自動化する機能です。

・IDS(Intrusion Detection System)とIPS(Intrusion Prevention System)の2種類があり、ネットワークレベルやホストレベルなど、さまざまな範囲で導入されます。

脆弱性管理 (Vulnerability Management)

・ネットワーク機器やサーバ、アプリケーションなどの脆弱性をスキャン・評価し、パッチ適用や設定変更などの改善策を計画・実施するプロセスです。

・定期的なスキャンやレポートにより、潜在的なセキュリティホールを可視化します。

暗号化・キー管理 (Encryption & Key Management)

・データ通信や保存データを暗号化し、その鍵(キー)を安全に保管・配布・更新するための仕組みです。

・データ保護の基本となる暗号アルゴリズム選定から、鍵のローテーションや失効処理までの一連の管理を担当します。

3-7. データ管理・分析 (Data Management & Analytics)

OSSから収集される多種多様なデータ(ログ情報、性能情報、障害情報など)を統合し、機械学習やAIなどを用いて運用最適化や新規サービス立案に活用する領域です。BSSの顧客データや課金情報などと組み合わせることで、ネットワーク最適化やパーソナライズドサービスが可能になります。

データ収集基盤 (Data Collection & Ingestion)

・ネットワーク機器、サービス監視ツール、ログサーバ、アプリケーションなど、複数のソースからデータを収集(Ingestion)して蓄積・配信するための基盤です。

・定期的なバッチ取得、ストリーミング処理、メッセージングキューなど、さまざまな方法でデータを取り込みます。

データレイク / DWH (Data Lake / Data Warehouse)

データレイクは生データを含めて多様な形式のデータをまとめて格納する領域、DWH(Data Warehouse)は分析に最適化した形式(スタースキーマなど)で構造化されたデータを格納する仕組みです。

・OSSやBSS、外部ソースから収集したデータを、適切なストレージに保管し、後続の分析やレポートに活用できるよう整理します。

分析・可視化 (Analytics & Visualization)

・収集・蓄積されたデータから意味のある洞察を得るための集計、モデリング、可視化を行う機能です。

・ダッシュボードやグラフ、地図上へのプロットなどを通して、運用担当者や経営層がすばやく状況を把握できるようにします。

AI/ML活用 (AI/ML-based Insights)

・機械学習や深層学習(AI)技術を活用し、大量のネットワーク・サービスデータからパターン認識、予測分析、異常検知などを行う機能です。

・OSS領域では、障害予測や自動復旧、需要予測、ネットワーク最適化などにAI/MLの導入が進んでいます。

ビジネスインテリジェンス (BI連携)

・企業の経営判断や事業戦略立案に役立つように、OSS/BSSデータを含む多様なデータを統合的に分析する取り組みや機能です。

・BIツール(Tableau、Power BI、Qlikなど)と連携し、経営やマーケティング部門が自分たちで自在にデータを活用できる環境を整えます。


4. TM Forumフレームワークとの関連

4-1. eTOMとの対応関係

eTOMではOperationsドメインがさらにプロセス群に分割されており、その中で「Service Fulfillment」「Service Assurance」「Resource Management & Operations」がOSSに対応する主要な領域となります。今回紹介した7つの領域は、eTOMの中の複数プロセスを包含する形で整理したイメージです。

4-2. SIDとの連携

SID(Shared Information/Data model)は、物理リソースや仮想リソース、サービスなどあらゆる通信事業のオブジェクトデータの構造を体系化しています。OSSの各機能で扱うインベントリ情報やトポロジ情報をSIDベースでモデル化することで、業界標準に沿ったデータ管理が可能になります。

4-3. TAMとの対応

TAM(Telecom Applications Map)は、OSS/BSSを含む通信事業者のアプリケーション群を可視化したリファレンスモデルです。今回の7領域は、それぞれTAM上の「Network Resource Management」「Service & Resource Fulfillment」「Service & Resource Assurance」などのコンポーネントに紐づけられます。

5. まとめ:変化するOSS領域の今後

通信業界はクラウドネイティブ化やネットワークの仮想化(NFV)、そしてソフトウェア定義(SDN)の流れにより、OSSにも大きな変化が求められています。TM Forumのフレームワークを活用しつつ、より柔軟で自動化された運用を実現することが事業者の競争力向上に直結します。

  • マルチクラウド・ハイブリッドクラウド対応
    データセンターやパブリッククラウド、エッジコンピューティングが混在する中で、エンドツーエンドのオーケストレーションが必須になります。
  • AI/MLの活用による高度な運用
    障害予測や自動復旧、需要予測によるリソース最適化など、データ分析の高度化で運用コスト削減やサービス品質向上が期待できます。
  • 5G/6G時代に向けた新たな要件
    超低遅延、大規模IoT対応などに向けて、リアルタイム性・スケーラビリティの高いOSSアーキテクチャへの移行が不可欠になります。

今後もTM Forumが提供するフレームワークやガイドライン、Open APIなどの標準仕様をうまく組み合わせることで、OSSの導入・運用コストを抑えつつ、よりオープンかつ柔軟な通信サービスを実現できるでしょう。


最後に

本記事では、TM Forumのフレームワークをベースに、OSSの機能や領域をMECEの視点で大きく7つに分解し、それぞれの概要と主な機能を紹介しました。ネットワークの複雑化やビジネス要件の多様化が進む中で、OSSが担う役割はますます重要になっています。
TM Forumが推進するオープンな標準やベストプラクティスを活用することで、業界全体としても相互接続性や運用効率を高め、通信サービスの品質・信頼性を維持しながら新しい価値を生み出すことが期待されます。

今後も最新技術動向とあわせてTM Forumの動向をウォッチしながら、OSS領域の最適化・高度化に取り組んでいきましょう。