TAMは、Telecom Application Mapの略称で、
・通信事業者(モバイルキャリア、固定通信事業者、ISPなど)
・デジタルサービス企業(クラウドサービス提供者、OTT事業者、MVNOなど)
を対象に、「どの領域でどのようなアプリケーションが動いているか」を一目で整理しやすくするアプリケーションフレームワークです。
通信業界には、顧客管理、課金、ネットワーク管理、分析・レポーティングなど多岐にわたる機能を持つアプリケーションが多数存在します。
TAMは、それらを機能単位でマッピングし、重複や抜け漏れを防ぎながら最適配置を考えるためのツールとして機能します。
なぜTAMが必要なのか?
1. 大規模・複雑化するアプリケーション環境
通信事業者や大手IT企業では、長年のシステム拡張やM&Aを通じてアプリケーション数が膨大になっています。部門横断で異なるシステムが導入されていると、同じ機能を持つアプリが重複していたり、必要な機能がどこにも実装されていないといった事態が起こりがちです。
TAMを使って全体を俯瞰することで、「どの機能をどのアプリケーションが担っているか」「今後どの機能を強化する必要があるか」を明確にでき、システムの重複投資を削減しやすくなります。
2. 新サービスや新技術への対応
5G、IoT、クラウド、AIなどの新技術や新サービスが次々と登場するなかで、これらに対応するアプリケーションを最適に配置・統合する必要があります。TAMを参照すれば、「この新サービスに必要な機能はどの部門が保有しているのか?」「どのアプリケーションと連携すればスムーズに導入できるのか?」といったアプリケーションポートフォリオの全体感がつかみやすくなります。
TAMの構成と特徴
TAMでは、アプリケーションを機能ベースで分類・マッピングします。たとえば、以下のようにカテゴリが分けられます。
- Customer Management(顧客管理)
例: CRMシステム、問い合わせ対応システム - Billing & Revenue(課金・収益管理)
例: 課金システム、インボイス発行システム - Service Management(サービス管理)
例: サービスプロビジョニング、SLA管理ツール - Resource Management(リソース管理)
例: ネットワーク設備管理、在庫管理システム - Analytics & Reporting(分析・レポーティング)
例: ビッグデータ分析基盤、BIツール - Partner & Channel Management(パートナー・チャネル管理)
例:契約締結・更新・報酬管理、複数チャネル統合管理 - Enterprise Support(バックオフィス系)
例: 会計システム、人事システム、リスク管理ツール
このように機能ごとにカテゴライズしていくことで、どのドメインでどんなアプリケーションが必要かが明確になります。
TAMが示す「機能ベース」とは、アプリケーションをその実際の役割や提供する機能ごとに分類するアプローチです。具体的には、顧客管理、課金、ネットワーク管理、分析・レポートなどの機能カテゴリをあらかじめ定義し、各カテゴリに該当するアプリケーションをマッピングしていきます。
従来の「組織別」「システム別」の分類では、
・同じ機能を複数のアプリケーションが重複して提供している
・必要な機能がどこにも実装されていない
・機能名やシステム名が組織ごとにバラバラ
といった問題が見えにくくなりがちでした。対してTAMの機能ベースでは、「この機能は誰がどのアプリで実装しているのか?」を一目で把握でき、最適配置や重複削減がしやすくなります。
1. Customer Management(顧客管理)
CRM(Customer Relationship Management)
顧客情報の統合管理、問い合わせ履歴の管理、マーケティングオートメーションなど。
Contact Center / Help Desk
電話・チャット・メールなど、顧客からの問い合わせやクレーム対応を一元的に管理する。
Customer Experience Monitoring
NPS(ネットプロモータースコア)やCSAT(顧客満足度)などを測定・分析し、顧客体験を最適化。
- 顧客との接点を一元管理し、満足度や継続利用率の向上を目指す
- 問い合わせ対応の迅速化や個別最適なオファーの実施
2. Billing & Revenue Management(課金・収益管理)
Rating & Charging(料金計算)
通話・データ通信量、コンテンツ利用などをもとに料金を算出する。
Invoicing(請求書発行)
月次の利用料を計算・請求書作成し、顧客に送付して決済ステータスを追跡する。
Payment & Collections Management(回収管理)
決済システムとの連携や滞納顧客への督促などを管理する。
- 収益漏れを防止し、正確かつ効率的に売上を把握
- 複雑な料金プランやキャンペーン割引にも対応可能な柔軟性
3. Service Management(サービス管理)
Service Provisioning(サービスプロビジョニング)
顧客が申し込んだプランや機能を実際にアクティベートし、利用可能な状態にする。
Service Assurance(サービス品質保証)
SLA(サービス品質保証)達成度を監視し、障害が起こった際に早期発見・修復を行う。
Order Management(オーダー管理)
顧客やパートナーからの注文(新規契約やプラン変更など)を受付・処理し、サービス提供へつなげる。
- 顧客にサービスを迅速・確実に提供し、トラブル時の影響を最小化
- リードタイムの短縮や顧客満足度の向上を図る
4. Resource Management(リソース管理)
Network Inventory(ネットワーク在庫管理)
ネットワーク機器、ポート、回線、周波数帯域など、物理・論理リソースの在庫を一元管理。
Fault Management(障害管理)
ネットワークや機器の障害をリアルタイムで検知し、原因究明・修復に必要な情報を追跡する。
Configuration & Capacity Management(構成&キャパシティ管理)
ネットワークやサーバの設定状況を管理し、将来的な負荷や需要を見越して増強計画を立てる。
- ネットワークインフラの安定運用と、最適な投資計画の立案
- サービス停止リスクの低減とコスト効率の向上
5. Analytics & Reporting(分析・レポート)
Data Warehouse & BI(ビジネスインテリジェンス)
顧客・課金・リソースなどの情報を集約し、レポートやダッシュボードを通じて可視化。
Big Data & AI Analysis
大規模データ(通話記録、Webアクセスログなど)を機械学習で分析し、新しいビジネスインサイトを得る。
Predictive Maintenance
ネットワーク障害の予測や顧客解約リスクの推定など、プロアクティブな対策を検討。
- データに基づいた意思決定を推進し、オペレーショナルエクセレンスを高める
- 新規ビジネスモデルや顧客価値の創出
6. Partner & Channel Management(パートナー・チャネル管理)
Partner Onboarding & Contract Management
代理店やローミングパートナー、コンテンツプロバイダなどとの契約締結・更新・報酬管理を行う。
Channel Integration
オンラインショップ、コールセンター、代理店店舗など、複数チャネルの取り扱い製品や価格、販促情報を一元管理する。
Partner Performance Analytics
代理店やパートナーの販売実績・顧客満足度をモニタリングし、インセンティブ設計を最適化。
- エコシステム全体での収益最大化と、円滑な協業体制の構築
- パートナー間のデータ連携をスムーズにし、新サービスを迅速に展開
7. Enterprise Support(バックオフィス支援)
Finance & Accounting(財務・会計)
売上・コスト・投資などを管理し、経営の指標を可視化する。
HR & Workforce Management(人事・労務管理)
採用・評価・勤怠・研修など従業員関連の業務を管理する。
Governance, Risk & Compliance(ガバナンス・リスク管理)
規制や社内ルールへの順守状況をモニタリングし、リスクをコントロールする。
IT Support & Tools(社内ITサポート)
社内システムやデバイスの導入・保守、社内ヘルプデスクなど。
- 企業全体の運営を支え、コスト最適化やリスク管理を徹底する
- 安定した経営基盤をつくることで、コア業務(サービス提供)に集中できる
機能ベースでアプリケーションをマッピングするメリット
重複や不足の可視化
どの機能が、どの部門・アプリケーションで実装されているかを「機能」という共通切り口で確認できるため、重複機能や未実装機能を簡単に把握できる。
組織横断的な最適化
一部門だけの視点でなく、企業全体・エコシステム全体の機能バランスを検討できる。たとえば、外部連携(パートナー・チャネル管理)と顧客管理(CRM)を一体で見直すなど、シナジー効果が得やすい。
システム導入や改修の優先度設定が容易
新しく必要な機能を明確化し、どのアプリケーションを強化・統合・廃止するのかを検討するとき、機能ベースのアプローチは意思決定を客観化してくれる。
他のフレームワークとの連携に有効
たとえば、eTOMで定義された業務プロセスと「どの機能・アプリケーションでそのプロセスを実現するのか」を対応づけしやすい。SIDのデータモデルとも照合し、データの流れが不整合なく定義できる。
TAMのメリット
1. システム重複の削減
アプリケーション全体を俯瞰すると、同じ機能を複数のアプリケーションが担っていることに気づくケースが少なくありません。TAMを活用し、どの機能をどのアプリが担当しているかを明確にすることで、重複しているアプリケーションを統合・廃止したり、複数の機能を一つのアプリに集約したりする意思決定がしやすくなります。
2. ガバナンスと透明性の向上
TAMは、アプリケーションの責任部門やステークホルダーを明確化するうえでも役立ちます。アプリケーションが乱立していると、運用管理や変更要望の窓口が不明確になりがちですが、TAMで可視化することで、誰が責任を持ち、どのプロセスで何が必要かといった点を整理できます。結果として、ガバナンスが強化され、システム全体の透明性が向上します。
3. 新規プロジェクト立ち上げ時の効率化
新規サービスや大規模プロジェクトを立ち上げる際、すでにあるアプリケーションをどう活用できるか、どこに新規開発が必要かを迅速に見極める必要があります。TAMで事前にアプリケーション構成を把握しておけば、
- 既存アプリをどのように再利用できるか
- 新機能はどのアプリに追加すべきか、または新たにアプリを作るべきか
といった判断がスムーズになり、プロジェクト全体のリードタイムを短縮しやすくなります。
4. 他のTM Forumフレームワークとの連携
TAMは単独で使うだけでなく、eTOM(Business Process Framework)やSID(Information Framework)、**ODA(Open Digital Architecture)**などのフレームワークと連携して使うことで、さらに大きな効果を発揮します。
- eTOMとの連携: eTOMは業務プロセスの標準化を示し、TAMはアプリケーションの構造を示すため、両者を合わせると「どの業務プロセスで、どのアプリケーションが使われるか」を紐づけられます。
- SIDとの連携: SIDはデータモデルの標準化を示すため、TAMで整理したアプリケーション間のデータの流れをSIDに沿って定義すると、システム間のデータ交換や整合性をとりやすくなります。
- ODAとの連携: ODAはコンポーネントベースのクラウドネイティブアーキテクチャを目指すフレームワークです。TAMで可視化したアプリケーションを、ODAのモジュール(BFC: Business Function Component)として再構築することで、柔軟かつ拡張性の高いシステム設計が可能になります。
まとめ
TAM(Telecom Application Map)は、通信業界におけるアプリケーション資産を機能別・階層別に整理し、最適な配置や運用を検討するためのフレームワークです。
- 大量のアプリが乱立する環境を可視化し、重複やギャップを見つけやすくする
- ガバナンスやデータの流れを明確化し、新規プロジェクトやサービス追加時の効率を高める
- eTOM、SID、ODAと組み合わせて、業務プロセスやデータモデル、アーキテクチャ全体を統合的に最適化できる
といったメリットがあり、将来的にも5Gやクラウドネイティブ化、AIやIoTの普及によって複雑さが増す通信・IT業界ではますます重要度が増すと考えられます。もし自社のアプリケーション全体を整理したい、重複を削減したい、新技術への対応力を高めたいという課題を抱えているなら、ぜひTAMを導入候補の一つとして検討してみてください。
参考リンク
- TM Forum公式サイト: TM Forum | Assisting Telecoms Through Digital Transformation
- Open Digital Framework: Open Digital Framework – TM Forum
TAMを含むTM Forumのフレームワークを上手に活用し、複雑なシステムやサービス基盤を整備していきましょう。結果として、サービスの品質向上や運用コストの削減、そして新たなビジネスチャンスの開拓につながるはずです。