【解説】システム開発におけるユーザー教育計画の立て方について

こんにちは。わさおです。

今回はシステムのユーザー教育計画の立て方について解説します。

システム開発においては、要件定義や設計、プログラミング、テストといった工程が注目されがちですが、実際にシステムを利用するユーザーがその価値を十分に享受できるかどうかは、最終的には「ユーザー教育」にかかっています。

プロジェクトマネージャーやITコンサルタントなど、システム開発の上流から下流にかかわる立場の人は、ユーザー教育をプロジェクトの一環としてしっかり位置づける必要があります。本稿では、そのユーザー教育の方法や注意点、計画の立て方について詳しく見ていきましょう。


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1. ユーザー教育とは何か

ユーザー教育とは、新たに導入したシステムを現場のユーザーがスムーズに使えるようになるための研修・説明会・マニュアル整備などの活動を指します

新システムの操作方法を単に教えるだけでなく、「新システムが導入される背景は何か」「現場の業務がどのように変わるのか」「従来の手作業や既存システムとの差異はどこにあるのか」を丁寧に説明し、ユーザーが抵抗感なく利用を始められるようにすることがゴールです。

システム開発には直接的に含まれない工程と思われがちですが、現場でシステムが活用されなければ投資コストを回収できず、プロジェクトの成功とは呼べません。

そのため、プロジェクト計画段階からユーザー教育のフェーズをしっかり組み込み、要件を満たしただけで終わらず、現場が新システムを「使いこなせる」レベルまで支援する姿勢が重要です。

2. ユーザー教育の具体的な手法

ユーザー教育の手法としては、大きく以下の2種類があります。システムの規模や利用者数、導入の重要度などに応じて、どちらか一方、あるいは両方を組み合わせて実施します。

  1. ユーザー向け説明会
  2. マニュアル配布

一般的には、システムの影響範囲が大きい場合や業務上の重要度が高い場合、またユーザー数がそこまで多くない場合には説明会を実施し、直接説明を行うメリットが生かされます。

反対に、ユーザー数が極めて多いケースや、操作方法が比較的単純で説明会を開催するほどではない場合は、マニュアル配布を中心に進めるのが現実的です。

以下では、それぞれの手法について詳細に見ていきます。

2-1. ユーザー向け説明会

目的

ユーザー向け説明会を行う主な目的は大きく2つあります。

  1. 新システムに対する不安やネガティブなイメージを払拭し、ポジティブな印象を与える
  2. 新システムの具体的な操作方法を理解してもらう

新しいシステムに対しては、多くのエンドユーザーが「本当にうまく動くのか」「操作が複雑になるのではないか」など、さまざまな不安を抱きがちです。そこで、説明会を通じて「業務がどう効率化されるのか」「作業がどれほど楽になるのか」など、現場のメリットを分かりやすく伝えられれば、一気にポジティブなイメージに転換できる可能性があります。

ポイント

説明会を成功させるためのポイントとしては、以下の3点が挙げられます。

  1. 説明の順番は業務説明 → システム操作の流れで行う
    なぜシステムを導入するのか、現場の業務がどう変わるのかを十分に理解してもらったうえで、その支援ツールとしてシステムがあることを示します。操作方法だけを先に説明してしまうと、ユーザーは「自分たちの業務に何の関係があるのか」を理解しづらくなり、学習意欲が下がってしまうことがあるためです。
  2. 現場のメリットをわかりやすく強調する
    システム導入によるメリットが明確であればあるほど、ユーザーの抵抗感は減り、積極的に活用しようというモチベーションが高まります。業務時間短縮や手戻り削減、エラー防止効果などを具体的に数字などで示すとより効果的です。
  3. 業務に精通しているメンバーが主体的に説明する
    システム部門や外部ベンダーだけで説明を行うのではなく、業務に詳しい社内のメンバーが前面に立って説明すると説得力が増します。ユーザーにとっては「同じ業務をする仲間」が説明することで安心感を得られますし、現場特有の疑問にも即座に答えやすくなります。

準備における確認観点

説明会を成功させるには、当日の運営をスムーズにするための入念なリハーサルや環境準備が欠かせません。具体的には、以下の点をチェックしておくとよいでしょう。

  1. 本番会場でリハーサルを行う
  2. 本番と同じ台数のPCを接続して動作確認する
  3. 参加者全員のIDで問題なくログインできるか確認する
  4. 説明会当日のシナリオを順を追って操作してみる
  5. 説明者役と参加者役に分け、実際の進行を想定したリハーサルを実施する
  6. OSやブラウザなど、バージョン違いによる不具合がないかをチェックする
  7. デスクトップなどに必要なショートカットを事前に作成しておく
  8. 説明会で使用するサンプルデータなどを準備しておく
  9. リハーサルの際に時間を計測し、過不足を把握する

これらを事前に行うことで、当日のトラブルを極力減らし、ユーザーの理解をスムーズに促すことができます。

2-2. マニュアル配布

ユーザー向け説明会と並ぶもう一つの教育手法が、「マニュアル配布」です。これは、あまりにもユーザー数が多い場合や、簡易なシステムであって説明会を開くほどではない場合に有効です。

もちろん説明会と比較してコストが抑えられる一方で、ユーザーが自分自身でマニュアルを読まなければならないため、導入時の心理的ハードルを下げる効果はやや弱まります。

配布するマニュアルは、大きく分けて以下の2種類に分類できます。

  1. 業務マニュアル
  2. システム操作マニュアル

業務マニュアル

業務マニュアルには、システム操作だけでなく、それがどのように業務に役立つか、あるいはシステム以外に必要となる手続きやフローといった情報が含まれます

たとえば、複数のシステムをまたがる作業の全体像や、システムでは扱わない書類手続きの進め方など、現場に密着した視点が欠かせません。

  • 業務マニュアルは「システムの操作」のみならず、「実際の業務全体」の流れを示す
  • 業務で使わないシステム機能は載せない
  • 複数のシステムを横断して完結する業務の説明も含む

システムがあくまで「業務を支える道具」であることを忘れず、業務マニュアルを作成するのは、現場の実情をよく知る社内の担当者が望ましいでしょう。

外注先が作成した場合、どうしても現場の細かいニュアンスが反映されにくくなり、ユーザーが「結局この機能はどう使えばいいの?」と迷うケースが発生しがちです。

システム操作マニュアル

システム操作マニュアルは、画面操作やボタンの機能、入力の仕方といった技術的な説明に特化しています。業務全体の流れよりも、「特定画面での入力手順」「エラーが出た場合の対処方法」など、システム利用時の不明点を解消することが主眼です。

操作マニュアルは比較的誰でも作成しやすく、特に受入テストや運用テストを実施しているタイミングで「テスト担当者が手順を整理しながら作る」ケースも多く見られます。

実際にシステムを触りながら作成することで、最新かつ正確な操作情報が集まるというメリットがあります。

3. ユーザー教育計画書の作成

ユーザー教育をスムーズに行うためには、事前に「ユーザー教育計画書」を作成しておくと便利です。以下のような項目を整理しておくと、プロジェクト関係者の認識を統一しやすく、準備漏れや手戻りが防ぎやすくなります。

  • 教育の目的
    システム導入によってどのようなスキルをユーザーに習得してもらいたいのか、あるいはどのような業務定着を目指すのかを明確にします。
  • 教育計画スケジュール
    システムテスト完了後、リリース前など、どの時期にどのような研修を行うかを決めます。開発スケジュールとの整合も重要です。
  • スコープ
    ユーザー教育の範囲を明確にし、どこまでを研修でカバーするのか(業務面まで踏み込むのか、システム操作のみなのか)を設定します。
  • 対象者
    部署や役職別に研修内容を分ける必要があるか、全体で一律に行うかなど、対象の絞り込みを行います。
  • 方法
    ユーザー向け説明会をメインとするのか、マニュアル配布を中心にするのか、または動画やオンライン研修などを組み合わせるのか検討します。
  • 期間・場所
    説明会が必要な場合は、どれくらいの時間を想定し、どの会場やオンラインツールを利用するかを明確にします。
  • 教材
    どのような資料やスライド、マニュアルを利用するのかを決め、関係者と共有します。
  • 準備内容
    リハーサルの段取りやPCの台数、ネットワーク、アカウントの管理など、事前準備のタスクを明確にしておきます。
  • 問い合わせ窓口/フロー
    システム運用開始後にユーザーが問い合わせをしたいとき、どこに連絡すればよいのかを案内します。また、問い合わせ内容が複雑化する場合の対応フロー(ヘルプデスク→開発ベンダーなど)も整理します。

4. まとめ

システム開発の現場では、どうしても設計やプログラミングなどの技術的な工程が注目されがちです。

しかし、どんなに高性能なシステムを導入しても、実際に使うユーザーがそのメリットを理解できなかったり、操作方法に戸惑って利用が進まなかったりすると、期待した効果を得ることはできません。

したがって、システム開発フェーズの早い段階から「ユーザー教育」を忘れずに計画し、研修内容やマニュアル整備、問い合わせ対応フローなどをきちんと準備しておくことがプロジェクト成功の鍵となります。

  • ユーザー向け説明会では、業務背景の理解 → システムの説明といった順序を徹底し、ユーザーの不安を払拭しながら操作方法を伝える
  • マニュアル配布の場合は、業務マニュアルとシステム操作マニュアルを切り分け、ユーザーが参照しやすい形で提供する
  • ユーザー教育計画書を策定し、準備内容や対象、進め方を関係者全員で共有し、確実に実行する

これらのポイントを踏まえてユーザー教育に取り組むことで、システムが現場にスムーズに浸透し、プロジェクトとしての本来の価値を最大限に発揮できるようになるはずです。

システム開発の一連の流れの中で、ともすれば後回しにされがちなユーザー教育ですが、プロジェクトマネジメントの観点からは「重要な最終工程」と捉え、開発初期の段階から抜かりなく準備を進めていきましょう。