従業員数20名から50名規模の企業様から、「セキュリティ対策を強化したいが、大企業のような予算も専任の担当者もいない。具体的に何を入れれば良いのか」というご相談を非常によくいただきます。
小規模企業であっても、サイバー攻撃の脅威は変わりません。むしろ、大企業への侵入経路(サプライチェーン攻撃の足場)として、あるいはランサムウェアによる身代金要求のターゲットとして、中小企業が狙われるケースが急増しています。
本記事では、「管理の手間を最小限にする」「コストパフォーマンスを最大化する」という観点から、20名規模の会社が導入すべき具体的なセキュリティ対策と製品名を解説いたします。
セキュリティ対策の基本戦略:スイート製品への集約
20名規模の組織における最大のボトルネックは「人の手」が足りないことです。兼任のIT担当者が、アンチウイルスソフト、ファイアウォール、資産管理ツールを別々の管理画面で運用するのは現実的ではありません。
したがって、勝つための戦略は「機能を統合したスイート製品(オールインワン型)を採用する」ことです。バラバラの製品を組み合わせるのではなく、プラットフォームに統合することで、セキュリティ強度を高めつつ管理コストを劇的に下げることができます。
最優先の投資先:Microsoft 365 Business Premium
もし貴社が業務でWordやExcelを使用しており、メールやファイル共有のセキュリティを高めたいと考えているなら、迷わず推奨する製品があります。
Microsoft 365 Business Premium
これは単なるOfficeソフトのサブスクリプションではありません。中堅・中小企業向けに設計された、最強のセキュリティパッケージです。月額料金(ユーザーあたり3,000円強)は一見高く見えるかもしれませんが、以下の機能がすべて含まれているため、個別に製品を契約するよりも圧倒的に安価で強力です。
- エンドポイントセキュリティ(Microsoft Defender for Business) 市販のウイルス対策ソフトの上位版に相当する機能が含まれています。従来のパターンマッチングだけでなく、EDR(脅威検知と対応)機能も標準装備されているため、ランサムウェア対策として非常に有効です。
- ID管理と多要素認証(Microsoft Entra ID Plan 1) 旧Azure ADです。パスワードだけでなく、スマートフォンのアプリを使った多要素認証(MFA)を強制できます。これにより、パスワード流出による不正アクセスをほぼ防ぐことができます。
- デバイス管理(Microsoft Intune) 会社支給のPCやスマートフォンをクラウドから遠隔管理できます。紛失時にデータを消去(ワイプ)したり、OSのアップデートを強制したりすることが可能です。
- メールセキュリティ(Exchange Online Protection) フィッシングメールやマルウェアが添付されたメールを自動的に除去します。
従業員20名の企業であれば、まずはこのライセンスを全社員分契約し、機能を有効化することが、最も効果的なセキュリティ対策となります。
ネットワークセキュリティの具体的選定
クラウド活用が進んでも、オフィスで仕事をする以上、社内ネットワークの出入り口を守ることは不可欠です。しかし、高価すぎる機器は不要です。
UTM(統合脅威管理)アプライアンス
オフィスのインターネット回線の出入り口に設置する「門番」です。20名規模であれば、以下のモデルがコストと性能のバランスに優れています。
Fortinet FortiGate 40F または 60F
日本国内で圧倒的なシェアを持つFortinet社のエントリーモデルです。ファイアウォール機能に加え、アンチウイルス、不正侵入防御(IPS)、Webフィルタリング機能が含まれています。
選定の理由は「導入業者が多く、トラブル時にサポートを受けやすいこと」です。マニアックな製品を選ぶと、設定できる人がいなくなり、運用が立ち行かなくなるリスクがあります。
ネットワーク機器(Wi-Fi)
家庭用ルーターではなく、法人向けの機能を持ちつつ、スマホアプリで簡単に管理できる製品を選びましょう。
Cisco Meraki Go シリーズ
大企業向けネットワーク機器の最大手Ciscoが提供する、小規模オフィス向けのブランドです。 「専任の管理者がいなくても、スマホアプリだけで設定・管理ができる」のが最大の特徴です。
誰がどのくらい通信しているかを可視化したり、来客用のWi-Fiを安全に提供したりする機能が備わっています。機器がクラウド管理されているため、ファームウェアのアップデートも自動で行われます。
ID・パスワード管理の脱・Excel管理
「パスワードは付箋に書かない」「Excelで共有しない」というのは基本ですが、複雑なパスワードをいくつも覚えるのは不可能です。これを解決するのがパスワードマネージャーです。
1Password(ワンパスワード) Teams
全世界で利用されているパスワード管理ツールです。 企業向けの「Teams」プランでは、共有の金庫を作成できます。「経理部だけがアクセスできる銀行口座のパスワード」「全員が使う備品購入サイトのパスワード」といったように、権限を分けて安全にパスワードを共有できます。 社員は「マスターパスワード」を1つ覚えるだけで済み、実際のWebサイトへのログインは生体認証や自動入力で行えるため、利便性と安全性が同時に向上します。
データバックアップと共有
ランサムウェアに感染した場合や、PCが故障した場合に備え、データはローカル(PC内)に置かず、クラウドに保存するのが鉄則です。
Box Business / Business Plus
容量無制限のクラウドストレージです。 Boxの強みは「セキュリティ機能の高さ」と「バージョン履歴」です。ランサムウェアによってファイルが暗号化されてしまっても、Box上の「バージョン履歴」機能を使えば、感染前の状態に時間を巻き戻して復元することができます。 また、権限設定が細かく行えるため、社外とのファイル共有基盤としても安全に利用できます。
あるいは、前述の Microsoft 365 に含まれる OneDrive for Business と SharePoint Online を活用するのも一つの手です。こちらも1TBの容量があり、同様にバージョン履歴からの復元が可能です。コストを抑えるならMicrosoft 365への一本化をお勧めします。
導入の優先順位とロードマップ
予算とリソースには限りがあります。以下の順序で導入を進めることを推奨します。
ステップ1:IDとエンドポイントの保護(即時) Microsoft 365 Business Premium(またはGoogle Workspaceの上位プラン)を導入し、多要素認証(MFA)を全社員に強制します。同時に、PCへDefender(または適切なEDR)を展開します。これが最優先です。
ステップ2:パスワード管理の整備(1ヶ月以内) 1Passwordなどを導入し、使い回しのパスワードを撲滅します。
ステップ3:オフィスネットワークの整備(更改タイミングで) 家庭用ルーターを使っている場合は、FortiGateなどのUTMへの置き換えを検討します。VPN機能を使えば、外出先から社内サーバーへのアクセスも安全になります。
まとめ
従業員20名規模の企業におけるセキュリティ対策の合言葉は、「統合(スイート化)」と「クラウド化」です。
あれこれと単体の製品を継ぎ接ぎするのではなく、Microsoft 365 Business Premium のような統合型プラットフォームを核にし、物理的な防御として FortiGate を、運用補助として 1Password を組み合わせる構成が、現在の最適解と言えます。
セキュリティ対策は「保険」ではなく、ビジネスを止めないための「投資」です。まずは、現在のアカウント管理状況を見直すところから始めてみてはいかがでしょうか。

