【解説】Paloalto Prismaについて解説します

今日のITインフラストラクチャにおけるセキュリティ対策は、かつてないほどの変革期を迎えています。クラウドサービスの利用拡大、テレワークの常態化、そしてサイバー攻撃の高度化により、従来の「境界型防御」では対応しきれない場面が増えてきました

そこで注目されているのが、Palo Alto Networks(パロアルトネットワークス)が提供するクラウドセキュリティブランド「Prisma(プリズマ)」です。

本記事では、このPrismaが具体的にどのようなソリューションで構成され、現代のセキュリティ課題をどのように解決するのか、初心者の方から導入を検討されているエンジニアの方まで理解できるよう、詳細に解説していきます。

Palo Alto Networksにおける「Prisma」の位置付け

まず初めに、Palo Alto Networksの製品ポートフォリオ全体におけるPrismaの立ち位置を整理しましょう。同社は現在、主に3つの柱で製品を展開しています。

  1. Strata(ストラータ) 次世代ファイアウォール(PAシリーズ)を中心とした、ネットワークセキュリティのブランドです。オンプレミスの境界防御を担います。
  2. Cortex(コーテックス) AIと自動化を活用した、セキュリティオペレーション(SOC)向けのブランドです。エンドポイント防御や脅威検知・対応を担います。
  3. Prisma(プリズマ) 今回解説する主役であり、クラウドセキュリティに特化したブランドです。「Secure the Cloud(クラウドを保護する)」をテーマに、クラウド上のデータ、アプリケーション、そしてそこへアクセスするユーザーを保護します。

Prismaは単一の製品名ではなく、クラウド時代に必要なセキュリティ機能を網羅した「製品群(スイート)」の総称です。その中でも特に中核となるのが、「Prisma Access(プリズマアクセス)」と「Prisma Cloud(プリズマクラウド)」、そして「Prisma SD-WAN」です。

Prisma Access:SASEを実現するクラウド型セキュリティ

Prisma Accessは、「SASE(Secure Access Service Edge:サシー)」の概念を具現化する製品です。

これまでの企業ネットワークは、各拠点の通信を一度データセンターに集約し、そこに設置されたファイアウォールを経由してインターネットへ抜ける「ハブ&スポーク型」が主流でした。しかし、Microsoft 365やZoomなどのクラウド利用が爆発的に増えたことで、データセンターの回線がパンクし、通信遅延が発生するという課題(ローカルブレイクアウト問題)が浮上しました。また、自宅やカフェから働くユーザーは、VPNゲートウェイのボトルネックに悩まされることになります。

Prisma Accessは、この課題を根本から解決します。

グローバル規模のクラウドプロキシ

Prisma Accessの実体は、Palo Alto NetworksがGoogle Cloud(GCP)やAWSなどのパブリッククラウド基盤上に構築した、巨大な分散型クラウドファイアウォールです。世界100カ所以上に展開された接続ポイントに対し、ユーザーや拠点は最寄りの入り口からアクセスします。

これにより、ユーザーがどこにいても、データセンターを経由することなく、クラウド上でセキュリティチェックを受けた上で、SaaSやインターネット、社内リソースへ安全かつ高速にアクセスできるようになります。

統合されたセキュリティ機能

Prisma Accessには、Palo Alto Networksが長年培ってきたセキュリティ技術が詰め込まれています。

・ファイアウォール・アズ・ア・サービス(FWaaS) アプリケーションベースでの制御を行い、脅威をブロックします。

・SWG(Secure Web Gateway) URLフィルタリングやアンチウイルスなど、Webアクセスの安全性を確保します。

・ZTNA(Zero Trust Network Access) 従来のVPNのようにネットワーク全体へのアクセスを許可するのではなく、ユーザーごとに許可された特定のアプリケーションのみへのアクセスを提供します。これにより、万が一IDが漏洩しても被害を最小限に抑えることができます。

・CASB(Cloud Access Security Broker) SaaSの利用状況を可視化し、機密データの持ち出し制御やマルウェアの混入を防ぎます。

これらが単一のプラットフォームで提供されるため、管理者はポリシーを一元管理でき、ユーザーは場所を問わず同じセキュリティレベルを享受できるのが最大の特徴です。

Prisma SD-WAN:アプリケーション起点の次世代ネットワーク

SASEの構成要素として、セキュリティ(SSE)と対になるのがネットワーク(SD-WAN)です。Palo Alto Networksは、CloudGenix社の買収により獲得した技術を「Prisma SD-WAN」として展開しています。

従来のSD-WANは、主にパケットのルーティング(レイヤー3)に基づいて回線制御を行っていました。しかし、Prisma SD-WANは「レイヤー7(アプリケーション層)」での制御に特化しています。

アプリケーション定義による制御

IPアドレスやポート番号ではなく、「これはZoomの通信」「これはOffice 365の通信」といったアプリケーション単位でトラフィックを識別します。これにより、重要なWeb会議の通信は遅延の少ない高品質な回線へ、バックアップなどの大量データ通信は安価な回線へと、自動的かつインテリジェントに振り分けることが可能です。

自律的な運用(AIOps)

機械学習を活用し、ネットワークの状態を常に監視します。トラブルが発生した場合、その原因が回線にあるのか、アプリケーションにあるのかを迅速に特定し、運用の自動化を支援します。Prisma Accessとネイティブに統合されているため、容易にSASE環境を構築できる点も大きなメリットです。

Prisma Cloud:コードからクラウド環境までを包括的に保護

Prisma Accessが「つなぐ」部分のセキュリティであるのに対し、Prisma Cloudは「守るべき場所(クラウドインフラ)」そのもののセキュリティを担います。

AWS、Microsoft Azure、Google Cloud、Oracle Cloudなど、マルチクラウド環境を利用することが当たり前になった現在、各クラウドの設定ミスや脆弱性管理は極めて複雑になっています。Prisma Cloudは、これらを統合管理するCNAPP(Cloud Native Application Protection Platform)としての役割を果たします。

CSPM(Cloud Security Posture Management)

クラウドの設定ミスを検知・是正する機能です。「S3バケットが公開設定になっている」「セキュリティグループのポートが全開放されている」といった危険な設定をリアルタイムで発見し、コンプライアンス違反を防ぎます。

CWPP(Cloud Workload Protection Platform)

クラウド上の仮想マシン(VM)、コンテナ、サーバーレス機能(FaaS)などのワークロードを保護します。実行中のプロセスを監視し、不審な挙動や脆弱性を検知・ブロックします。特にコンテナセキュリティにおいては、買収したTwistlockの技術が統合されており、業界トップクラスの機能を誇ります。

コードセキュリティ(Shift Left)

セキュリティ対策を開発の初期段階(左側)にシフトさせる「シフトレフト」を実現します。開発者が書いているインフラストラクチャコード(IaC)をスキャンし、デプロイされる前に脆弱性や設定ミスを発見します。これにより、本番環境で問題が発生してから対処する「手戻り」を劇的に減らすことができます。

CIEM(Cloud Infrastructure Entitlement Management)

クラウド上のIDと権限(エンタイトルメント)を管理します。過剰な権限が付与されているアカウントを特定し、最小権限の原則に基づいた適正化を支援します。

なぜ今、Paloalto Prismaが選ばれるのか

市場には多くのセキュリティ製品が存在しますが、その中でPrismaが選ばれる理由は、その「包括性」と「一貫性」にあります。

1. シングルベンダーによる統合

SASEやCNAPPを実現しようとすると、複数のベンダー製品を組み合わせる必要が出てくることが一般的です。しかし、それでは管理コンソールがバラバラになり、運用負荷が高まります。Prismaは、ネットワークセキュリティからクラウドネイティブセキュリティまでを一つのベンダー、一つのポリシー体系でカバーできるため、運用の複雑さを劇的に解消します。

2. 卓越した可視化能力

Palo Alto Networksの根幹技術である「App-ID」により、あらゆるトラフィックをアプリケーションレベルで識別します。これは、ポート番号だけで判断していた時代とは比較にならないほどの解像度でネットワークを見える化することを意味します。「誰が」「どのアプリで」「何のデータを」扱っているかを正確に把握できて初めて、適切な制御が可能になります。

3. ゼロトラストの実現

「決して信頼せず、常に検証する」というゼロトラストモデルを、絵に描いた餅ではなく、具体的な実装として提供できるのがPrismaです。ユーザーの場所、デバイスの状態、アクセスの文脈を常に検証し続ける仕組みが、プラットフォーム全体に組み込まれています。

導入に向けたステップと考慮事項

Prismaの導入は、単なるツールの入れ替えではなく、セキュリティアーキテクチャの刷新を意味します。そのため、段階的なアプローチが推奨されます。

現状分析(アセスメント)

まずは自社のトラフィックフロー、利用しているクラウドサービス、テレワークの現状を可視化することから始めます。どこにリスクが潜んでいるのか、どの通信がボトルネックになっているのかを特定します。

スモールスタート

例えば、Prisma Accessであれば、まずはモバイルユーザー(リモートワーク社員)から適用を開始し、徐々に拠点間通信へと拡大していく方法があります。Prisma Cloudであれば、まずはAWS環境の可視化(CSPM)から始め、次にコンテナ保護へと広げていくといったステップが考えられます。

ポリシーの策定

ゼロトラストに基づいた新しいポリシーを設計します。従来の「社内だから許可」という考え方を捨て、アプリケーション単位、ユーザー単位でのきめ細やかなルール作りが必要になります。

ZscalerとPrisma Accessの徹底比較

クラウドセキュリティ(SASE)の導入を検討する際、多くのお客様が直面するのが「Palo Alto NetworksのPrisma Accessにするか、Zscalerにするか」という選択です。

Zscalerはクラウドセキュリティのパイオニアであり、非常に強力な競合製品です。市場におけるシェアも高く、両者は「SASE界の二大巨頭」とも呼ばれています。しかし、その設計思想(アーキテクチャ)や得意とする領域には明確な違いがあります。

ここでは、両者の決定的な3つの違いについて解説します。

生い立ちとアーキテクチャの違い

最大の違いは、その「出自」と、そこから来るトラフィック処理のアプローチです。

Zscaler:Webプロキシからの発展

Zscalerは創業当初から「クラウドベースのプロキシ(SWG)」として設計されました。そのため、Webトラフィック(HTTP/HTTPS)の処理に非常に長けています。 基本構造は、ユーザーとインターネットの間に立つ「プロキシサーバー」です。通信を一度Zscaler側で終端し、中身を検査してからインターネットへ送ります。 ただし、プロキシベースであるため、Web以外の通信(独自のプロキシ非対応アプリケーションや特殊なプロトコル)については、後付けの機能で対応している部分があり、設定が複雑になるケースがあります

Prisma Access:次世代ファイアウォールのクラウド化

一方、Prisma Accessは、Palo Alto Networksが誇る「次世代ファイアウォール(NGFW)」の機能をそのままクラウド上に持ってきたものです。 そのため、Web通信(80/443ポート)だけでなく、「全ポート・全プロトコル」の検査をネイティブに行えるのが最大の特徴です。 App-ID技術により、ポート番号に関係なくアプリケーションを識別できるため、Webブラウザを使わない業務アプリや、音声・動画通信などの特殊なトラフィックであっても、抜け穴なくセキュリティを適用できます。

2. インフラストラクチャ(足回り)の品質

セキュリティ機能だけでなく、通信がつながる「回線品質」もSASEの重要な要素です。

Zscaler:自社データセンター中心

Zscalerは、世界各地に自社でデータセンター(ZEN)を展開しています。ユーザーは最寄りのZENに接続します。非常に広範囲をカバーしていますが、インターネット区間を経由する距離が長くなる場合があり、地域や時間帯によっては遅延(レイテンシ)の影響を受けることがあります

Prisma Access:Google Cloud (GCP) のバックボーン活用

Prisma Accessの大きな強みは、Google Cloud Platform (GCP) のプレミアムティア・ネットワークバックボーンを利用している点です。 Googleが巨額の投資をして構築した、世界中を張り巡らす高速な光ファイバー網を利用できます。ユーザーが最寄りのアクセスポイントに入った瞬間から、混雑した一般的なインターネット網ではなく、Googleの専用高速回線を通って目的地(SaaSやデータセンター)へ向かいます。これにより、遅延が少なく、非常に安定した通信品質を提供できます。これは特に、Web会議(Zoom/Teams)の品質維持において大きなアドバンテージとなります。

3. 運用管理の一貫性(ハイブリッド環境)

多くの企業は、完全にクラウドだけで完結しているわけではなく、物理的なオフィスやデータセンター(オンプレミス)も持っています。この「ハイブリッド環境」をどう守るかで差が出ます。

Zscaler:クラウド専用の管理

Zscalerはクラウドセキュリティ専業であるため、物理的なファイアウォール製品を持っていません。 もし、オフィスの出口には他社製のファイアウォールを置き、リモートワーク用にはZscalerを使うとなると、管理画面は2つになり、ポリシー(ルール)も別々に作成・管理する必要があります「オフィスのファイアウォールでは許可していたのに、Zscalerではブロックされた」といった不整合が起きやすく、運用負荷が高くなりがちです

Prisma Access:オンプレミスとクラウドの統合管理

Palo Alto Networksは、物理ファイアウォール(PAシリーズ)でも圧倒的なシェアを持っています。 Prisma Accessは、これら物理アプライアンスと同じ管理プラットフォーム(Panorama)で統合管理が可能です。「ある通信を許可する」というポリシーを一つ作れば、それをクラウド上のPrisma Accessにも、オフィスの物理ファイアウォールにも同時に適用できます。 運用担当者にとって、場所を問わず「単一のポリシー」で管理できることは、運用工数の削減とセキュリティレベルの統一において、計り知れないメリットをもたらします。

まとめ

Paloalto Prismaは、境界が消失した現代のIT環境において、ビジネスのスピードを落とすことなく、強固なセキュリティを提供するプラットフォームです。

 ・Prisma Accessは、場所を問わない安全なアクセス(SASE)を提供します。

 ・Prisma SD-WANは、アプリケーション品質を最適化し、ユーザー体験を向上させます。

 ・Prisma Cloudは、開発から本番環境まで、クラウドネイティブな資産を包括的に保護(CNAPP)します。

これらは個別に導入することも可能ですが、組み合わせることで相乗効果を発揮し、よりシンプルで堅牢なセキュリティ体制を構築することができます。DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する企業にとって、Prismaは単なる守りの道具ではなく、安心してビジネスを加速させるための基盤となるでしょう。

セキュリティの在り方に正解はありませんが、Prismaが提示する「包括的なクラウドセキュリティ」というアプローチは、間違いなく今の時代が求めている一つの最適解と言えます。