Open Digital Frameworkは、国際的な非営利団体であるTM Forumが策定・推進している業界標準のフレームワーク群の総称です。
5G、クラウド、IoT、AIなどの技術が急速に進化する中、通信事業者だけでなく、多くの企業が複雑なネットワークやサービスを効率的かつ柔軟に運用する必要に迫られています。
そうした状況で、「ビジネスプロセス」「データモデル」「API」「アプリケーションアーキテクチャ」などを標準化・モジュール化し、スピーディーかつスケーラブルにサービスを構築・提供できる」 という考え方を実現するのがOpen Digital Frameworkです。
このフレームワークを理解することで、以下のようなメリットが得られます。
- 部分的な入れ替えや機能追加がしやすく、ビジネス拡大・新規参入のハードルが下がる。
- 標準インタフェースと共通データモデルを活用することで、システム連携や保守にかかる工数を削減。
- 要件定義や実装時に参照するべき枠組みが明確化され、同じ問題を繰り返し解決する必要がなくなる。
- フレームワークに準拠した仕組みを採用すれば、多様な企業・製品同士でも連携が容易になる。
目次
- 1. 【Over View】Open Digital Architecture (ODA)
- 2. 【Business】Business Process Framework (eTOM)
- 3. 【Information Systems】Information Framework (SID)
- 4. 【Transformation Tools】Application Framework (TAM)
- 5. 【Implementaion】Open API
- 6. 【Deployment & Runtime】運用・導入の視点
- 7. Open Digital Frameworkの全体像
- 8. 導入のステップとポイント
- 9. まとめ
- 参考リンク
1. 【Over View】Open Digital Architecture (ODA)
概要
Open Digital Architecture(ODA)は、通信事業者やデジタルサービスプロバイダが採用する“次世代のアプリケーションアーキテクチャ”を示すフレームワークです。従来の縦割り・モノリシックなシステム構成を見直し、ビジネス機能をモジュール(コンポーネント)化してAPIで連携させることで、システムの拡張性・柔軟性・開発速度を高めることを狙っています。
ポイント
Business Function Component(BFC)の導入
請求・課金、顧客管理、在庫管理といった機能を小さなコンポーネントとして設計することで、部分的なアップデートや再利用がしやすくなる。
Open APIによる連携
TM Forumが策定する標準APIを採用することで、異なるベンダーやシステムとの接続を容易にし、サービス開発のスピードを上げる。
クラウドネイティブの考え方
マイクロサービスやコンテナなどの技術を活用し、インフラの拡張やサービスのスケーリングを柔軟に実現する。
位置付け
ODAは、Open Digital Frameworkの“アーキテクチャ”部分を担います。後述するeTOMやSID、TAMなどのフレームワークの成果物を組み合わせながら、「どのビジネス機能をどのように実装し、どのように連携すべきか」 を整理する役割を果たすのがODAの大きな特徴です。
2. 【Business】Business Process Framework (eTOM)
概要
eTOM(enhanced Telecom Operations Map) は、通信業界を中心に培われてきた業務プロセスのベストプラクティスを体系化したもので、現在はBusiness Process Frameworkと呼ばれます。顧客管理、課金、サービス開発、リソース管理、サプライチェーンなど、あらゆる業務領域を階層ごとに分解し、参照モデル化しています。
ポイント
プロセス標準化
通信・デジタルサービス企業の定型業務を整理し、再現性の高い形でまとめている。
階層的な構造
マクロレベル(戦略計画や顧客対応など)からミクロレベル(個々のオペレーションや手順)まで、複数階層で詳細化。
部門間連携の強化
eTOMを導入することで、各部署がどのプロセスを担当し、どの段階で他部署と連携するべきかが明確になる。
位置付け
Open Digital Frameworkの中でeTOMは「ビジネスプロセスの視点」を担うフレームワークです。ODAのBFC構成を考える際にも、eTOMを参照すれば「どのような業務フローがあり、どの機能をコンポーネント化すべきか」を整理しやすくなります。
3. 【Information Systems】Information Framework (SID)
概要
SID(Shared Information/Data Model) は、業界共通の情報モデルを定義したフレームワークです。通信事業者が扱う顧客情報、契約情報、サービス定義、ネットワークリソース、課金データなどを「どのようなデータ項目を、どのような関係性で管理するか」という視点で体系的にまとめています。
ポイント
共通データモデルの確立
顧客、サービス、リソースといった大分類から派生するデータ項目をモデル化し、業界の標準用語や形式を整備。
システム間の相互運用性向上
SIDを採用すれば、異なるベンダーのシステム間でもデータの定義がズレにくく、統合しやすい。
データ品質の向上
標準化されたデータ構造を採用することで、同じ情報が複数のフォーマットで重複管理されるリスクを低減し、不整合を防ぎやすくなる。
位置付け
Open Digital FrameworkにおいてSIDは「情報モデル・データモデルの視点」をカバーします。ODAのコンポーネントが互いにAPIを通じてやり取りする際、共通のデータ定義があることで、スムーズな連携と高いデータ品質を実現できるのです。
4. 【Transformation Tools】Application Framework (TAM)
概要
TAM(Telecom Application Map) は、通信事業者が運用するアプリケーションやシステムを機能ごとに整理し、どの部分を担当するのかを明確化するフレームワークです。大規模なアプリケーション群がそれぞれ何の役割を果たしているかを可視化し、重複や抜け漏れを防ぐことを目的としています。
ポイント
機能別のマッピング
課金、顧客管理、オーダー管理、ネットワーク管理など、よく使われるアプリケーション機能を整理し、相互関係を示す。
アプリケーションポートフォリオの最適化
既存システムと新規開発システムを併用する際に、どこまで機能が重複しているかを可視化して、無駄を省く。
導入ガイドライン
通信事業者や関連ベンダーが新しいアプリケーションを導入する際のガイドとしても機能し、運用コストやリスクを抑制する。
位置付け
Open Digital FrameworkにおいてTAMは「アプリケーションの配置・役割分担」を示すフレームワークです。ODAで定義したBFCやSIDのデータモデルと連携する形で、企業内の全アプリケーション資産を最適化していくときの指針となります。
5. 【Implementaion】Open API
概要
Open APIは、TM Forumが策定・公開している標準化されたインタフェース仕様の総称です。通信業界やIT業界において、異なるベンダーや企業のシステム同士をスムーズに連携させるための手段として、近年非常に注目されています。
ポイント
豊富なAPIカタログ
顧客管理、注文管理、課金、在庫管理など、通信事業やデジタルサービス運営に欠かせない機能を標準化したAPIが用意されている。
相互運用性の向上
同じOpen API仕様に準拠していれば、システム間の接続やデータ交換が容易になり、導入・保守コストが下がる。
オープンでコミュニティ主導
TM Forumのメンバー企業だけでなく、幅広いコミュニティがAPIの拡張・改良に参加できる仕組みになっている。
位置付け
Open Digital FrameworkにおいてOpen APIは「システム連携・通信の共通言語」を提供する役割を持ちます。ODAのコンポーネント間連携や、外部サービスとの統合の要となるため、今後もAPIの範囲はさらに拡大していくことが予想されます。
6. 【Deployment & Runtime】運用・導入の視点
ODFが示す「アーキテクチャ」「業務プロセス」「データモデル」「アプリケーションマッピング」などは、サービスをどのように構築すべきかを包括的に定義しています。しかし、それだけでは実際の運用・導入(Deployment & Runtime)は完結しません。ここでは、ODFにおけるDeployment & Runtimeの視点をいくつか紹介します。
6.1 クラウドネイティブとマイクロサービス
ODAでのマイクロサービス設計
ODAではシステムを小さなコンポーネント(BFC)に分割し、Open APIで連携する設計を推奨しています。このコンポーネントをクラウドネイティブなマイクロサービスとしてデプロイすれば、コンテナ化やKubernetesのようなオーケストレーション技術と組み合わせて高いスケーラビリティを得ることができます。
DevOpsやCI/CDパイプライン
マイクロサービスは継続的なリリースやテストが求められるため、DevOpsの手法(CI/CDパイプラインなど)と非常に相性が良いです。ODFがAPIやプロセスを標準化しているおかげで、機能追加やバグ修正を小さな単位で実行しやすくなります。
6.2 インフラストラクチャの抽象化
- クラウド・オンプレ・エッジの統合
近年、サービスはクラウドだけでなくオンプレミス環境やエッジ環境でも稼働するケースが増えています。ODFで定義されたコンポーネントやAPIを利用すれば、どの場所(クラウド/オンプレ/エッジ)で動いているかに依存せずにサービスを組み上げられるため、ネットワークやインフラを抽象化した形で運用できます。 - ネットワークスライシングや仮想化
5G時代にはネットワークの仮想化やスライシングが進んでおり、必要な帯域や遅延要件に応じてインフラを柔軟に割り当てられます。ODFが提供する標準APIやデータモデルを使うことで、ネットワーク切り替えやリソース割り当てを自動化・最適化しやすくなります。
6.3 オートメーションと運用管理
- Closed-loop Automation(自動制御)
ODFのコンセプトでは、eTOMなどの業務プロセスをリアルタイムのデータと組み合わせて自動的に実行することを想定しています。たとえば、ネットワーク障害を検知したら即座にリソースを切り替える、顧客が新プランを申し込んだら自動で容量を拡張する、といったオートメーションが可能です。 - 監視・分析・フィードバックループ
SIDで定義した共通データモデルを使い、各コンポーネントから監視情報を取得しやすくします。その結果、障害予兆の分析やAI/MLを活用した自動運用の土台が整い、運用コストやダウンタイムの削減に寄与します。
6.4 セキュリティとガバナンス
- APIゲートウェイと認証・認可
ODFで大量のマイクロサービスやAPIが連携する仕組みを作る場合、APIゲートウェイやIAM(Identity and Access Management)との統合が不可欠です。Open API仕様を満たすだけでなく、セキュリティ要件を盛り込むことで、運用時のリスクを抑えられます。 - ガバナンスモデルの明確化
eTOMで定義されたプロセスと、インシデント対応やセキュリティ監査などの運用手順を連動させ、組織横断的なガバナンスを確立するのがポイントです。どの部門が、どのタイミングでセキュリティ評価を行うかなどを明確化しておく必要があります。
7. Open Digital Frameworkの全体像
ここまで挙げた要素を簡単にまとめると、Open Digital Frameworkは以下のように構成されます。
ODA(アーキテクチャ層)
ビジネス機能をモジュール化し、APIで連携するという設計思想。
Business Process Framework (eTOM)(プロセス層)
業務フローを標準化し、どのプロセスで何をすべきかを整理する。
Information Framework (SID)(データ層)
業界共通のデータモデルを定義し、システム間でのデータ交換を容易にする。
Application Framework (TAM)(アプリケーション層)
通信事業者が使うアプリケーション群を体系的にマッピングし、役割と配置を明確化する。
Open API(連携層)
上記のアーキテクチャやプロセス、データモデルを現実のシステム連携に落とし込むためのインタフェース仕様。
Deployment & Runtime(運用・導入の視点)
クラウドネイティブ化、オートメーション、セキュリティ・ガバナンスなど、実稼働環境を前提とした運用管理の仕組みを提供
8. 導入のステップとポイント
Open Digital Frameworkを導入・活用する際には、以下のようなステップを考慮するとスムーズです。
現状分析とギャップ抽出
自社システムのアーキテクチャ、ビジネスプロセス、データモデル、アプリケーション構成を洗い出し、Open Digital Frameworkの各要素と比較して差分を明確化する。
ロードマップ策定
すべてを一度に導入するのは難しいため、優先度の高い領域(たとえば課金システムの標準API化など)から段階的に適用する。
パイロットプロジェクト実施
小規模でも構わないので、実際にODAやOpen APIを使ったサービスを立ち上げ、効果や課題を検証する。
組織横断的な推進
eTOMの導入などは複数部門の協力が不可欠なので、経営レベルで統括しながら推進体制を整える。
継続的な運用とアップデート
フレームワークはあくまでベースライン。技術進化やビジネス要件の変化に合わせて、運用と更新を繰り返すことが重要。
9. まとめ
Open Digital Frameworkは、TM Forumが長年にわたって培ってきたベストプラクティスやノウハウを結集したものであり、通信事業のみならず、デジタルビジネス全般で注目される存在になっています。
- ODAによるモジュール化・アーキテクチャ設計
- eTOMによる業務プロセス標準化
- SIDによる共通データモデルの確立
- TAMによるアプリケーション構成の可視化
- Open APIによる相互運用性の向上
- Catalyst Programでの実践的なPoC・共同開発
これらが連携することで、企業が迅速かつ柔軟なサービス提供を行い、顧客体験や収益性を高めるための強力な後押しとなります。特にクラウドネイティブや5G、IoTといった新技術の登場ペースが加速する中では、一度整備した基盤を使い回しながら新サービスをスピーディーに投入できる 仕組みづくりが欠かせません。
Open Digital Frameworkは一見すると専門用語が多く、ハードルが高そうに感じるかもしれません。しかし、その本質は「標準化とモジュール化を徹底し、ビジネス変化への対応力を高めよう」というシンプルな考え方にあります。まずは要素ごとの概要を把握し、自社の課題を解決するために何が活かせるかを検討してみるとよいでしょう。必要に応じてTM Forumのリソースやコミュニティを活用し、デジタル時代のビジネス基盤を強化していってください。
参考リンク
- TM Forum公式サイト: TM Forum | Assisting Telecoms Through Digital Transformation
- Open Digital Framework: Open Digital Framework – TM Forum