以下の記事は、対話型言語モデルを活用したアプリケーション開発を効率化するフレームワーク「LangGraph」について、概要から具体的な活用例、そして他の類似ツールとの比較などを網羅的に解説したものです。
LangGraphの特徴や活用方法をぜひ把握してみてください。
はじめに
近年、GPT-3やGPT-4、あるいはその他の大規模言語モデル(LLM)を使った生成AIが急速に注目を集めています。これらのモデルを活用することで、高品質なテキスト生成、要約、翻訳、チャットボット構築など、さまざまな可能性が開けています。
一方で、大規模言語モデルを直接APIで呼び出しつつ、複雑なプロンプト設計や情報の前処理・後処理を組み合わせるには、相応の知識や工夫が必要になります。
こうした課題を解決するフレームワークとして代表的なものが「LangChain」です。LangChainは「LLMを用いたアプリケーション開発をチェーン(Chain)の概念でつなぎ合わせる」ことをコンセプトにしています。
一連の処理をモジュール化し、簡単に拡張・再利用できる点が魅力です。しかし、LangChainは便利な一方で多機能すぎるがゆえに学習コストが高い、あるいは特定の用途においては設定が煩雑になるなどの側面も指摘されるようになりました。
そこで近年注目を集めているのが、より直感的で柔軟な「グラフ(Graph)」の概念を導入し、複数のプロセスやモジュールをノードとエッジで表現することで、複雑なタスクフローを可視化しやすくした「LangGraph」というフレームワークです。
本記事では、そんなLangGraphの特徴や基本的な使い方、活用のメリットなどを詳しく解説していきます。
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LangGraphとは?
グラフ構造によるフロー管理
LangGraphの最大の特徴は、その名のとおり「Graph(グラフ)構造」をベースにしている点です。たとえば、会話型AIやテキスト生成システムを設計する際、入力(ユーザーからの質問)から、前処理、プロンプトの組み立て、外部データベースへの問い合わせ、LLMへの問い合わせ、さらに結果の後処理、といった流れを複数ステップで実行する必要があります。LangGraphでは、これら一連のステップを「ノード」として定義し、各ステップ間の依存関係を「エッジ」で繋ぎます。
この手法は、以下のようなメリットをもたらします。
- 可視化が容易
グラフとして表現することで、処理フローや依存関係を視覚的に把握しやすくなり、チーム内での共有やデバッグがスムーズに行えます。 - 柔軟な拡張性
新たなノードを追加したり、既存のノードを差し替えたりする際に、グラフ構造だと変更範囲が明確です。また、特定ノードだけを切り出してテストするなどの操作も容易になります。 - 再利用しやすい
一度構築したノード群を別のプロジェクトでも流用したり、一部のノードのみをライブラリ化する、といった使い方もシンプルになります。
LangChainとの比較
LangChainとLangGraphは、どちらもLLMを用いたアプリケーションを構築するフレームワークであり、目指す方向性は似ています。しかしLangChainが「Chain」と呼ばれる線形的・階層的なモジュール構成を中心に据えているのに対し、LangGraphはより自由度の高い「Graph」構造を前提としています。
- LangChain: チェーンやエージェントと呼ばれる抽象化を通して、API呼び出しやプロンプトテンプレートなどを一連の流れとして組み立てる。既製のツール群が豊富。
- LangGraph: ノードとエッジでプロセス全体を視覚化・設定しやすい。サードパーティ連携やカスタムノードの作成などが柔軟。
どちらを選ぶかはプロジェクトの性質や、開発チームの好みによります。LangChainほど大規模で多機能なライブラリが不要であり、かつ「チャットフロー」や「複雑な前処理・後処理の分岐」を視覚的に扱いたい場合はLangGraphのほうが向いていると言えるでしょう。
LangGraphの基本構造
LangGraphでは、大きく分けて以下の概念があります。
- Node(ノード)
グラフ中の各ステップを表します。たとえば「外部API呼び出しノード」「プロンプト生成ノード」「テキスト要約ノード」「ファイル読み込みノード」など、多様な種類のノードが作れます。 - Edge(エッジ)
ノード間のデータフローや依存関係を示す線です。出力先のノードに対して、どのデータ(引数)を渡すかといったマッピングを設定します。 - Graph(グラフ)
ノード同士をエッジで繋ぎ合わせた全体構造です。LangGraphでは、このグラフを定義してrun()
のようなメソッドを呼び出すことで、一連のタスクフローを実行できます。
代表的なノードの例
- Input Node: ユーザーや外部から受け取る入力を保持するノード。
- Prompt Node: LLMに投げるプロンプトを構築するノード。テンプレートに変数を差し込むような処理を行う。
- LLM Node: 実際にOpenAIやその他のLLM APIを呼び出し、テキストを生成して返すノード。
- Processing Node: テキストを要約したり、構造化したり、あるいは外部APIに問い合わせたりする処理ノード。
- Output Node: 全体の結果を取りまとめて返すノード。ログの保存やユーザーへのレスポンス返却などを担う。
LangGraphのインストールと簡単な使い方
ここでは、Python環境でLangGraphを利用することを想定し、インストール方法から最も簡単なサンプルまでを紹介します。
インストール
bashコピーするpip install langgraph
上記コマンドでLangGraphをインストールします。OpenAI APIなどを使う場合は、別途openai
ライブラリなども必要になる場合があります。
最もシンプルな例
以下の例は、ユーザーからの入力を受け取り、単純にOpenAIの言語モデル(例えばGPT-3.5やGPT-4)へ渡して結果を出力する、という最小限のグラフです。あまりに単純なのでLangGraphのメリットが分かりづらいかもしれませんが、まずは基本構造をイメージするのに役立ちます。
pythonコピーするfrom langgraph import Graph, InputNode, LLMNode, OutputNode
# 1. グラフの初期化
graph = Graph()
# 2. ノードの作成
input_node = InputNode(name="input_question")
llm_node = LLMNode(name="call_llm", model="gpt-3.5-turbo", openai_api_key="YOUR_API_KEY")
output_node = OutputNode(name="final_output")
# 3. ノードをグラフに追加
graph.add_nodes([input_node, llm_node, output_node])
# 4. エッジの設定
# ユーザーの質問をLLMノードへ渡し、その結果を最終出力ノードへ渡す
graph.add_edge(input_node, llm_node, input_key="question", output_key="prompt")
graph.add_edge(llm_node, output_node, input_key="response", output_key="result")
# 5. グラフを実行
result = graph.run({"question": "世界で一番高い山は何ですか?"})
print(result)
処理の流れ
- InputNode:
{"question": "世界で一番高い山は何ですか?"}
というデータを受け取る。 - LLMNode:
question
というキーに紐づいた内容をプロンプトとしてLLM(OpenAI API)に投げる。 - OutputNode: LLMの応答(
response
)を結果として返す。
このように、LangGraphではノード間のデータの流れをエッジで明示的に結びつけることで、一連の処理の構造を把握しやすくしています。
応用的な使い方
LangGraphの真価は、複雑なタスクフローを分岐や結合、あるいは外部ツールとの連携を踏まえて構築できる点にあります。ここではいくつかの応用例を紹介します。
1. 外部データベースとの連携
たとえばユーザーからの質問内容に応じて、まずはデータベースに格納されている知識を検索し、その検索結果を要約してLLMに渡す、というフローを考えてみましょう。以下のようなイメージとなります。
- Input Node: ユーザー質問の入力
- DB Search Node: データベースに対して検索クエリを実行し、結果を返す
- Summary Node: 検索結果を短く要約する
- LLM Node: 要約したテキストをプロンプトに加味してLLM呼び出し
- Output Node: 最終的な回答をユーザーに返す
LangGraphでは、DB検索やテキスト要約などは「Processing Node」と呼ばれる形でラップして定義できます。たとえば以下のような疑似コードで書くことが可能です。
pythonコピーするfrom langgraph import Graph, InputNode, LLMNode, OutputNode, ProcessingNode
class DBSearchNode(ProcessingNode):
def process(self, query: str) -> str:
# ここでデータベース検索を行い、結果のテキストを返す
# 実装は省略
search_result = my_database_search(query)
return search_result
class SummaryNode(ProcessingNode):
def process(self, text: str) -> str:
# テキスト要約処理を行う
summary = summarize_text(text)
return summary
graph = Graph()
input_node = InputNode(name="question")
db_node = DBSearchNode(name="db_search")
summary_node = SummaryNode(name="summarize_search_result")
llm_node = LLMNode(name="call_llm", model="gpt-3.5-turbo", openai_api_key="YOUR_API_KEY")
output_node = OutputNode(name="final_output")
graph.add_nodes([input_node, db_node, summary_node, llm_node, output_node])
# ユーザーの質問をDB検索ノードへ
graph.add_edge(input_node, db_node, input_key="query", output_key="query")
# DB検索結果を要約ノードへ
graph.add_edge(db_node, summary_node, input_key="processed_data", output_key="text")
# 要約結果をLLMへ(プロンプトの一部として)
graph.add_edge(summary_node, llm_node, input_key="processed_data", output_key="prompt")
# LLMの回答を出力へ
graph.add_edge(llm_node, output_node, input_key="response", output_key="result")
result = graph.run({"query": "日本の人口推移を教えてください"})
print(result)
ここでは実際に外部データベースとの接続や、要約処理の実装などを省略していますが、LangGraphのノードとして定義することで、明確に処理ステップを可視化しながら拡張することができます。
2. 会話履歴の管理(メモリ機構)
チャットボットなどでは、会話の履歴を保持しながらやり取りを行う「メモリ機構」が重要になります。LangGraphでは、会話履歴を蓄積・参照するノードを用意したり、自作のノードとして拡張することで柔軟に対応できます。
たとえば、以下のような流れを考えます。
- Conversation Memory Node: 会話履歴を保持し、最新のユーザー発話を履歴に追加する
- LLM Node: 会話履歴全体をプロンプトに含めて呼び出し
- Output Node: 応答を返し、会話履歴にAIの発話を追記
このように、チャットボットの文脈を継続して管理しながら複数のノードを繋ぐ際に、グラフ構造で全体の状態を追いやすくなります。LangGraphでは、ノード間のデータの受け渡しを明示的に定義できるため、必要に応じてメモリの更新処理を挟むといった実装がスムーズに行えます。
3. 複数モデルの併用
OpenAIのGPT系モデルだけでなく、Hugging FaceのTransformersモデル(RoBERTaやBERTなど)や、他のクラウドサービスのLLMを組み合わせて使うケースもあるでしょう。LangGraphではノードを自作すれば、どのようなLLMや自然言語処理モデルでも利用可能です。
たとえば、次のようなフローが考えられます。
- ユーザーからの入力を受け取る。
- まずはRoBERTaベースの感情分析モデルでテキストのトーンを解析する(Processing Node)。
- 結果をもとに、OpenAI GPT-3.5で生成する回答のスタイルを変化させる(LLM Node)。
- 最終回答をユーザーへ返す。
このように、複数のモデルを組み合わせるワークフローも、LangGraphのグラフ構造であれば比較的容易に可視化・管理できます。
LangGraph導入のメリット
- 可視的なフロー設計
ノードとエッジで処理の流れを可視化できることは、大規模プロジェクトや複雑なタスクでは大いに役立ちます。メンテナンス性も向上し、デバッグ時に「どのノードの出力がおかしいのか?」を素早く特定できるようになります。 - 拡張・再利用が容易
一度定義したノード(外部API呼び出しや要約処理など)を別のプロジェクトでも再利用できる点は、大幅な開発効率向上につながります。 - 並列実行や分岐処理に強い
グラフ構造のため、処理を並列に実行したり、条件によって分岐したりといった高度な制御も行いやすいです。 - 他ツールとの相性
基本的にはLangChainなど他のフレームワークとも併用できます。特定の機能だけLangGraphのノードとして呼び出し、メインロジックは別フレームワークで動かす、といったハイブリッド構成も選択可能です。
LangGraphを使う上での注意点
- 学習コスト
LangChainと比べるとドキュメントやサンプル事例がまだ少ない場合があります。公式ドキュメントをよく読み、コミュニティで情報収集しながら使う必要があるでしょう。 - 可視化ツールの整備状況
グラフ構造をUIで表示したり編集できるツールが今後充実していく可能性はありますが、現時点ではまだシンプルな可視化に留まる場合もあります。チーム開発時には自前で可視化ダッシュボードを構築する必要があるかもしれません。 - バージョン管理
グラフ定義(ノード・エッジの結合関係)が大きくなると、変更管理が難しくなります。Gitなどで小まめに変更点を記録し、複雑化し過ぎないように気を配ることが大切です。
まとめ
本記事では、LangGraphの概要や特徴、そして基本的な使い方から応用的な事例までを解説しました。以下のポイントを押さえていただければと思います。
- LangGraphはノードとエッジを用いたグラフ構造でLLMアプリケーションのフローを設計できるフレームワーク
- LangChainよりも柔軟な分岐や可視化に強みがあり、大規模言語モデルの活用フローを管理しやすい
- 外部データベースや他のNLPモデルとの連携もノードとして定義することで簡単に組み込める
- ただし、まだ情報量やドキュメントが少なく、チームで導入する際には学習コストも検討する必要がある
大規模言語モデルを活用するプロジェクトは今後も増えていくと予想されますが、その一方でプロンプト設計や外部APIとの連携、会話メモリや要約などの前処理・後処理を含めた複雑なフローをいかに効率的に管理するかは大きな課題です。LangGraphのようなグラフ指向のフレームワークは、これらの課題に対してエレガントな解法を提供してくれます。
もし興味を持たれた方は、ぜひ小さなプロトタイプから試してみることをおすすめします。たとえば社内FAQのチャットボットや、社外サービスに問い合わせを行うスクリプトなど、日々の業務や趣味プロジェクトの中でLangGraphを使うことで、フローがどれほど見やすくなるか体感できるはずです。最初はシンプルなノード構成から始め、段階的に外部サービスとの連携や複数ノードの並列実行などを取り入れてみましょう。
最終的には、チーム全体で運用する大型のシステムであっても、LangGraphを中心に据えることで「どの処理が何をしているのか」「入力と出力の関係はどうなっているのか」を可視化しながら管理できるため、保守性や拡張性の面で大きな恩恵を得られます。
今後の展望
LangGraphはまだ比較的新しいアプローチであり、今後さらなるアップデートやプラグインの追加が行われることが期待されます。また、大規模言語モデルの急速な進歩や、プラグインエコシステムの拡大によって、LLMを取り巻く開発ツールは今後ますます進化していくでしょう。
- グラフの自動最適化: ノード間のやり取りを分析し、不要な呼び出しやリソースの無駄を自動検出・修正する機能の登場が期待されます。
- 高度な可視化UI: Webブラウザ上でノードをドラッグ&ドロップしてフローを作成するGUIツールが登場すれば、ノンコーディングでの開発も現実味を帯びてきます。
- マルチエージェント連携: 複数のLLMエージェントが相互にやり取りする仕組みをサポートしたり、エージェントごとに独自のノードを持つといった拡張が考えられます。
こうした進化に注目しながら、LangGraphや関連するフレームワークをうまく活用すれば、より高度で使い勝手の良いLLMアプリケーションを誰でも手軽に構築できるようになるでしょう。
参考リンク
以上、LangGraphについての概要と、基本的な使い方、およびメリットと注意点を中心に解説しました。大規模言語モデルを使ったシステムは今後ますます複雑化が進むと予想されますが、LangGraphのようなグラフ指向のアプローチを取り入れることで、システム全体を分かりやすく、拡張可能な形で構築できる可能性が広がります。ぜひ一度試してみて、その可能性を実感してみてください。