はじめに
近年、ソフトウェア開発をするうえでのバージョン管理システムは欠かせない存在となっています。特に「Git」を使ったホスティングサービスはエンジニアの世界では常識とも言えるほど広く普及しています。
代表的なサービスとしては「GitHub」が挙げられますが、それに並ぶ存在として「GitLab」も注目を集めています。
本記事では、GitLabがどのようなサービスなのか、そしてGitHubとどのように異なるのかを中心に、その基本的な使い方や活用例などを含めて解説します。
なお、GitHubについての解説は下記の記事を参照ください。
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GitLabとは
バージョン管理+プロジェクト管理を総合的にサポート
GitLabは、Gitを使ったソースコードのバージョン管理を中心としながらも、課題管理(Issue Tracking)や継続的インテグレーション(CI)、継続的デリバリー(CD)など、プロジェクト開発を包括的に支援するプラットフォームです。
初期はオープンソースプロジェクトとして誕生しましたが、現在はエンタープライズ向けの機能を含むエディションも展開されており、幅広い規模と用途に対応できる点が特徴です。
GitLabは自己ホスティング版(コミュニティ版)を無料で利用できるため、自社サーバやクラウド環境に独自にインストールして運用することも可能です。
オープンソースであることのメリット
GitHubは基本的にプライベートリポジトリを利用するには有料プラン(現在は無料枠が拡大し、個人ならほぼ無料でも利用可)というイメージが強く、運営はMicrosoftの子会社として行われています。
一方、GitLabはオープンソースコミュニティを中心に開発されているため、ソースコードが公開されており、独自カスタマイズやホスティングの自由度が高いという利点があります。
また、プライベートリポジトリの無料提供プランも充実しているため、個人開発者から企業レベルの大規模プロジェクトまで幅広いユーザー層に支持されています。
GitHubとの違い
1. ホスティングの自由度
GitHubは基本的にGitHub社(Microsoft)が運営するSaaSとして利用するのが一般的です。企業向けには「GitHub Enterprise」というオンプレミスやクラウド版もあるものの、導入には費用がかかります。
一方でGitLabはコミュニティ版をオンプレミス環境に無料でインストール可能であり、セキュリティ要件が厳しい環境でも柔軟に導入できるのが大きな利点となります。
2. CI/CD機能の内蔵
GitHubでも「GitHub Actions」や「GitHub CI/CD」などが利用可能ですが、元々GitLabは「GitLab CI/CD」として継続的インテグレーションやデプロイ関連の機能を内蔵している点が特徴です。
プロジェクトの設定ファイル(.gitlab-ci.yml
)をリポジトリに追加するだけで自動テスト・自動ビルド・自動デプロイが可能となり、設定画面から直接パイプラインを管理できるのは非常に便利です。
3. イシュー管理とコードレビュー
GitHubのIssueやPull Requestに相当する機能として、GitLabはIssueやMerge Request(MR)を提供しています。
機能的にはおおむね似ていますが、GitLabのIssue画面はシンプルながら柔軟性があり、チーム全員でプロジェクト管理を行いやすい工夫が見られます。
また、IssueとMerge Requestを連携することで「特定のIssueをクローズするMerge Request」などがわかりやすく可視化でき、進捗管理がよりスムーズになるのもメリットです。
4. プライシングとオープンソース
GitLabはコミュニティエディション(無料)とエンタープライズエディション(有料)を提供しており、機能差はあるものの、無料でも強力な機能が使えます。
GitHubの場合は個人や小規模組織が利用する分には無料プランでも十分ですが、企業で本格的に運用する際にはGitHub Enterpriseの利用を検討する場合が多いでしょう。
GitLabは自前ホスティングが可能なため、ライセンスやセキュリティ面でより柔軟なアプローチができる点が大きな特徴です。
GitLabの基本的な使い方
1. アカウントの作成
まずはGitLabの公式サイト(https://gitlab.com/)でアカウントを作成します。登録はメールアドレスやSNSアカウント(GoogleやGitHubなど)を利用して簡単に行うことができます。
また、自分または組織がサーバを用意してGitLabのコミュニティエディションをインストールする場合は、そちらの環境でもアカウントが必要です(SaaS版とは独立したユーザー管理になるため、混同しないよう注意が必要です)。
2. リポジトリ(プロジェクト)の作成
アカウントを作成したら、GitLabではリポジトリのことを「Project」と呼んでいます。以下の手順で新規プロジェクトを作成します。
- 「New project」ボタンをクリック
Create blank project
を選択(他にもテンプレートを利用したり、既存リポジトリをインポートすることも可能)- プロジェクト名を入力(例:my-first-gitlab-project)
- 公開範囲(Private/Public/Internal)を指定
- 「Create project」を押して完了
プロジェクトが作成されると、リポジトリのURL(SSHまたはHTTPS)が表示されるので、それを使ってローカルからリポジトリをクローンしたり、既存のローカルリポジトリをpushできます。
bashコピーする# 例: 新しいGitLabのリポジトリをクローン
git clone git@gitlab.com:username/my-first-gitlab-project.git
3. Issueを使ったタスク管理
プロジェクトページにある「Issues」タブから、バグ報告や新機能の提案などのIssueを作成できます。Issueには担当者のアサイン(Assignee)やラベルの付与、マイルストーンの設定などを行い、チーム全体で進捗を確認しやすい管理が可能です。
- Assignee: 誰がそのIssueを担当するか割り当てる
- Labels: バグやドキュメント修正、機能追加などのカテゴリを示す
- Milestones: リリースの節目や特定のスプリントに合わせてIssueをグルーピング
4. Merge Requestを使ったレビュー
GitLabでは「Merge Request(MR)」機能を使ってコードレビューを行います。
GitHubのPull Requestと似た仕組みで、開発者はブランチを作成して変更点をpushし、そのブランチをメインブランチ(通常はmain
やmaster
)にマージする際にMRを作成します。MRのページでコメントや変更リクエストを行い、レビューの承認が得られたらマージを実行するフローです。
MRとIssueを関連付けることで、「どのIssueを解決するMRなのか」を明確に表示でき、管理がしやすくなります。
5. GitLab CI/CDの設定
GitLabの目玉機能の一つが「GitLab CI/CD」です。自動テストやビルド、デプロイなどをリポジトリに用意する.gitlab-ci.yml
ファイルによって設定します。
最も簡単な例として、下記のような設定を書くと、コミット時に自動でテストジョブが走るようになります。
yamlコピーするstages:
- test
test_job:
stage: test
script:
- echo "Running tests..."
- npm install
- npm test
コミットやMR時にパイプラインが走り、テスト結果を確認できます。さらに、ステージを追加してビルドやデプロイを自動化すれば、開発からリリースまでをスムーズに継続的デリバリーすることが可能です。
GitLabの活用例
1. チーム開発でのコードレビュー強化
GitLabのMerge Request機能とIssue機能を連携させることで、チーム内でレビューの流れを標準化できます。
「1つのMRには最低2人の承認が必要」などのルールを明確にすると、品質の向上だけでなく、属人化を防ぎ知識共有も促進できます。
また、コメントのやりとりが1つの画面で完結するため、コミュニケーションコストを削減しつつ履歴を残せるのがメリットです。
2. DevOpsパイプラインの構築
GitLabはCI/CD機能とコンテナレジストリ(GitLab Container Registry)を内蔵しているので、ソースコードをpushしたタイミングでテスト、Dockerイメージのビルド、コンテナレジストリへのプッシュ、そしてサーバへの自動デプロイなどの一連の流れを一つのプラットフォームで完結できます。
これにより、開発者が細かい環境設定やリリース手順を意識する必要がなくなり、より開発自体に集中できるようになります。
3. 社内向けのオンプレミス運用
セキュリティ要件が厳しい企業や官公庁、あるいはインターネットに接続できないネットワーク環境では、パブリックなSaaSサービスを利用するのが難しい場合があります。
そういった場合にGitLabのコミュニティエディションをオンプレミスで導入すれば、外部にソースコードを出すことなくバージョン管理やIssue管理が行えます。
自前のサーバリソースが必要にはなりますが、プライバシーや情報漏えいリスクを抑えつつ利用できるのは大きな魅力です。
GitLabを導入する際の注意点
- バージョンアップのメンテナンス
コミュニティエディションを自己ホスティングする場合、GitLab本体のバージョンアップやセキュリティパッチの適用は自分たちで行わなければなりません。エンタープライズエディションを利用している場合でも、バージョンアップ時に互換性が失われる可能性があるため、リリースノートや移行ガイドをよく確認してから作業しましょう。 - ランナー(Runner)の運用
GitLab CI/CDを使う際、ジョブを実行する「Runner」を用意する必要があります。GitLabがホストする共有Runnerを使うこともできますが、プロジェクトやセキュリティ要件によっては自前でRunnerをセットアップする場合もあります。Docker RunnerやShell Runnerなど複数種類があるので、用途に応じて選択しましょう。 - ユーザー管理と権限設定
GitLabでは、ユーザーごとに役割を与えたり、グループ単位でプロジェクトを管理したりできます。中でも「Owner」「Maintainer」「Developer」「Reporter」「Guest」などの権限レベルがあるので、各ロールに応じたアクセス権限を正しく設定することが重要です。特に企業や大規模チームで利用する場合は、誰がどの操作を許可されているのかを明確に把握しておきましょう。 - バックアップ戦略
いざというときのために、GitLabの定期的なバックアップを設定しておくことが推奨されます。ソースコードだけでなくIssueやWikiなどのデータも含めてバックアップが必要です。コミュニティエディションでも、公式ドキュメントに沿って設定すれば自動的にバックアップを取得する仕組みが構築できます。
まとめ
GitLabはオープンソースでありながら、バージョン管理、Issue管理、CI/CD、コンテナレジストリなど、現代のソフトウェア開発に必要とされる機能を包括的に提供する強力なプラットフォームです。
GitHubとの最大の違いとしては、オンプレミスの自由度が高く、CI/CD機能が標準で統合されている点が挙げられます。
- バージョン管理: Gitベースで使いやすいリポジトリ管理
- Issue & Merge Request: チームでのコードレビューやタスク管理を支援
- CI/CD: 自動テストやビルド、デプロイまでワンストップで行える
- オンプレミス対応: 自社サーバでの運用が可能、セキュリティ要件にも柔軟に対応
- オープンソース: コミュニティエディションは無料で導入可能、ソースコードが公開されているため拡張性が高い
GitHubとGitLabはともに優れたソリューションですが、プロジェクトの規模や要件、チームの開発スタイルによって最適なサービスは変わってきます。
小規模チームでスピーディに始めるのであればGitHubで十分かもしれません。一方、大規模でセキュリティ要件が高い環境や、自動化(CI/CD)を深く活用したい現場では、GitLabの導入が大きなメリットをもたらすでしょう。
これからGitLabを導入してみようと考えている方は、まずはGitLab.comで無料プランを試してみるのがおすすめです。小さなプロジェクトを試験的に運用して、IssueやMerge Request、CI/CDの流れを実感してみてください。
慣れてきたらオンプレミスへの展開や、より高度なパイプラインの自動化などへステップアップしていくと、GitLabの強みをさらに活かした開発が可能になるはずです。
今後もGitLabは積極的に機能アップデートを続けており、コミュニティも活発に活動しています。ぜひ最新情報を追いかけながら、チームの生産性を向上させる強力な開発プラットフォームとして活用してみてください。