【TM Forum】ビジネスプロセスフレームワーク:eTOMとは?

eTOM(enhanced Telecom Operations Map) とは、通信業界を中心とする企業が行う様々な業務プロセスを体系的に整理したフレームワークのことで、現在は Business Process Framework とも呼ばれます。

通信事業における「サービス開発」「ネットワーク運用」「顧客管理」などの広範なプロセスを標準化しており、企業間で共通の“業務言語”として利用することで、部門間や企業間の連携をスムーズに進めることができます

eTOMには多層構造があり、大まかにStrategy, Infrastructure & Product(SIP)OperationsEnterprise Management という3つの大領域に分ける方法がよく知られています。一方、企業が実際に導入・運用する際には、目的や視点に応じて複数のドメイン(領域)に分割して考えることがあります。本記事では、マーケット&セールス、カスタマー、プロダクト、サービス、リソース、ビジネスパートナー、エンタープライズ の7ドメインに分けて、それぞれの役割や代表的なプロセスをわかりやすく解説します。


1. マーケット&セールスドメイン

マーケット&セールスドメイン は、市場分析や顧客セグメンテーションといったマーケティング活動から、具体的なセールス活動までをカバーするドメインです。主なゴールは、自社が提供する製品・サービスを「どの市場に、どのような形で売り出すか」を明確にし、顧客に正しくアプローチしていくことです。

主なプロセス例

マーケティング戦略策定

市場調査、顧客インサイトの分析、競合他社動向の把握などを通じて、プロダクトやブランドの方向性を決定します。

顧客セグメンテーションとターゲティング

顧客を属性や行動パターンで分類し、最も効果的なアプローチ方法を検討します。

キャンペーン企画・実行

新商品のローンチキャンペーンや割引プロモーションなどを計画し、多様なチャネル(オンライン、店舗、代理店など)で実施します。

セールスチャネル管理

直販・代理店・パートナーなど、販売チャネル全体を統合的に管理し、リードの獲得や契約につなげます。

マーケット&セールスドメインの活動が軌道に乗ることで、顧客獲得の効率化ブランド認知度の向上が期待できます。

2. カスタマードメイン

カスタマードメイン は、顧客との直接的な接点(フロントオフィス業務)を中心に扱うドメインです。具体的には、問い合わせ対応、契約手続き、クレーム処理など、顧客満足度の向上顧客維持に直結するプロセスが含まれます。

主なプロセス例

オーダー管理

新規契約やプラン変更の受付、注文内容の確認や手続きの完了までを管理します。

問い合わせ対応

コールセンターやチャットサポートなどを通じ、顧客から寄せられる疑問や要望に素早く対応します。

クレーム・苦情対応

サービス障害や料金トラブルなどに対し、適切な部署へエスカレーションしながら問題解決を図ります。

顧客満足度管理

アンケートやフィードバックを収集・分析し、継続的なCS向上施策を検討します。

カスタマードメインでは、顧客との継続的な関係構築が大きなテーマとなるため、「顧客中心」の視点が不可欠です。

3. プロダクトドメイン

プロダクトドメイン は、企業が提供する製品やサービス(※通信業界では料金プランや付帯サービスなどを含む)の企画・開発からライフサイクル管理までを対象にします。ここで決まった内容が、実際にサービスとして「どう提供されるか」に直結します。

主なプロセス例

製品・サービス企画

マーケティング部門からの市場インサイトや顧客要望をもとに、新しいプランや機能を検討します。

製品デザイン・開発

具体的な料金構造、利用可能な機能・オプション、UI/UXの検討などを行い、最終的な仕様を固めます。

テストとリリース準備

技術的なテストやユーザビリティ検証を実施し、リリースの計画(日時、チャネル、サポート体制など)を整えます。

ライフサイクル管理

製品・サービスをリリースした後も、市場からのフィードバックを取り入れつつ、継続的に改良・終了判断を下します。

プロダクトドメインの精度が高いほど、市場投入後のトラブルや手戻りを減らし、スムーズなサービスインを実現できます。

4. サービスドメイン

サービスドメイン は、実際に顧客へ提供するサービスを「どのように設計し、プロビジョニングし、運用するのか」に焦点を当てるドメインです。通信業界の場合は、ネットワーク設定やサービス品質(SLA)の管理など、テクニカルな要素が大きな比重を占めます。

主なプロセス例

サービス設計・アーキテクチャ

サービスの技術要件や構成を検討し、ネットワークやシステムの観点から最適なアーキテクチャを設計します。

サービスプロビジョニング

顧客が申し込んだサービスを、ネットワーク設定やアカウント発行などを経て実際に使える状態にする工程。

サービス保証(Service Assurance)

SLAの達成度を監視し、障害発生時のトラブルシューティングや早期復旧を行います。

サービス品質管理

ネットワークの遅延や帯域幅、パケット損失率などをモニタリングし、必要に応じて最適化を行います。

サービスドメインは、サービスの安定稼働や品質向上を実現するうえで欠かせないエリアです。

5. リソースドメイン

リソースドメイン は、サービスを運用するために必要なネットワーク機器・サーバ・ソフトウェアライセンスなどの“資産”を対象とするドメインです。eTOMでは特にネットワークリソース管理が重要視され、キャパシティの計画や故障対応などがここに含まれます。

主なプロセス例

リソース計画・設計

ネットワークやITインフラのキャパシティ予測を行い、必要な設備を増強・更新するタイミングを検討します。

リソースプロビジョニング

新規に導入した機器や仮想リソース(クラウド環境など)を設定し、サービス利用できる状態に整えます。

リソース障害管理

ネットワーク障害やサーバ障害を検出し、復旧対応や原因調査を行い、再発防止策を講じます。

リソース性能・品質管理

稼働状況やパフォーマンスをモニタリングし、問題の早期発見・対処を図ります。

リソースドメインがしっかりしている企業は、サービスの安定性コスト効率を高水準で維持しやすくなります。

6. ビジネスパートナードメイン

ビジネスパートナードメイン は、他社や代理店、サプライヤー、提携企業との関係を管理するためのドメインです。通信事業ではローミングパートナーやコンテンツプロバイダとの提携、ITベンダーの調達などが頻繁に発生するため、これらを統合的に扱う仕組みが必要となります。

主なプロセス例

パートナー選定・評価

どの企業と提携・調達契約を結ぶかを決定し、価格や品質、リスクなどを総合的に評価します。

契約・交渉管理

合意書・契約書の締結、サービスレベル合意(SLA)の策定などを行い、契約終了時の手続きも管理します。

共同プロモーション・協業

パートナーと協力して新商品・新キャンペーンを実施したり、相互に顧客を紹介し合ったりする仕組みを整えます。

パートナー成果測定・報酬管理

代理店の販売実績を評価し、コミッションを支払うなど、成果に応じた報酬管理を行います。

ビジネスパートナードメインを円滑に運営することで、エコシステム全体の成長ビジネス機会の拡大が期待できます。

7. エンタープライズドメイン

エンタープライズドメイン は、企業全体の経営基盤やバックオフィス業務を担当する領域です。財務、人事、リスク管理、ITサポートなど、企業の持続的成長に欠かせない機能が集約されます。

主なプロセス例

財務・会計管理

売上・経費・投資などの取引を記録・分析し、企業の経営指標を把握します。

人事管理(HR)

採用・評価・報酬などの従業員管理や研修制度を整備し、組織力の向上を支援します。

リスク&コンプライアンス

法令順守やセキュリティリスクの評価、事業継続計画(BCP)の策定などを行います。

内部ITサポート

社内システムの運用保守、ヘルプデスクの運営、セキュリティ管理など、従業員が業務に集中できる環境を整えます。

エンタープライズドメインの品質が高まると、企業全体のガバナンスリスク対応力が向上し、安定した事業運営が実現します。

8. まとめ

このように、eTOMを 「マーケット&セールス」「カスタマー」「プロダクト」「サービス」「リソース」「ビジネスパートナー」「エンタープライズ」 の7つのドメインに分けて捉えると、企業内・業界内の業務がどの領域で、どのように連携しているかを俯瞰的に理解しやすくなります。

  • マーケット&セールスドメイン: 市場調査・マーケティング戦略・セールス活動
  • カスタマードメイン: 顧客とのやり取り、問い合わせ・クレーム対応
  • プロダクトドメイン: 製品・サービスの企画・開発・ライフサイクル管理
  • サービスドメイン: 実際のサービス設計・提供・運用
  • リソースドメイン: ネットワークやインフラ資産の計画・導入・運用
  • ビジネスパートナードメイン: 提携企業との契約管理・協業・成果測定
  • エンタープライズドメイン: 財務・人事・リスク管理などのバックオフィス機能

各ドメインの境界はあくまで「分かりやすくするため」のものであり、実際には部門横断的にプロセスがつながっていることが多くあります。eTOMを導入する際は、自社の組織構造や業務フローをどのようにマッピングするかが重要です。明確なマッピングができれば、業務の重複や抜け漏れを防ぎ、業務効率化やサービス品質向上につながるでしょう。


参考情報

上記サイトには、eTOMの詳細や実装事例、他のフレームワーク(SID、ODAなど)との連携方法が多数掲載されています。興味を持った方はぜひ参照してみてください。