【解説】イーサネットとは何かを分かりやすく解説します

はじめてネットワークに触れる方にとって、「イーサネット」という言葉はどこか専門的に感じられるかもしれません。けれど、家庭やオフィスのパソコン、NAS、プリンター、さらにはテレビやゲーム機まで、身の回りの多くの機器がイーサネットを通じて情報をやり取りしています

本記事では、難しい数式や専門用語に偏りすぎないよう配慮しながら、基礎から実務で役立つポイントまでを丁寧語で整理します。途中でアダプタやコンバーター、フレームといった重要キーワードも自然に取り上げますので、実際の機器選びや配線にもすぐ活かしていただけます。

イーサネットの正体は「機器同士の共通語」

イーサネットは、コンピュータや周辺機器が「同じルールで」データをやり取りするための決まりごとです。国際的には IEEE 802.3 という規格名で定義され、主に有線の通信方式を指します

ルーターやスイッチ、パソコンの有線ポートに接続するケーブルでおなじみの仕組みで、Wi‑Fi が空気中を飛び交う無線の道なら、イーサネットは銅線や光ファイバーを通る有線の道です。

信頼性が高く、帯域が安定し、遅延も小さくできるため、業務用途や映像・音声の制作現場で広く使われています。

いまも「有線」が選ばれる理由

無線は便利ですが、電波環境や距離、干渉の影響を受けます。イーサネットはケーブルで物理的につながるため、速度と安定性を確保しやすいのが強みです。大容量ファイルのやり取り、クラウドへの常時アップロード、低遅延が求められる配信や遠隔編集などでは、有線の安心感が活きます。

OSI 参照モデルでの位置づけ

専門書では通信を階層に分けて説明します。イーサネットは主に「物理層(ケーブルや光)」「データリンク層(隣接機器間のやり取りのきまり)」を担当します。

このうちデータリンク層で使われる最小単位の入れ物がフレームです。上位の IP や TCP/UDP といった仕組みはフレームの中身として運ばれます。

フレームという「入れ物」をイメージする

イーサネットのフレームは、あて先と送り主の住所にあたる MAC アドレス、データの種類を示す番号(EtherType または長さ)、中身(ペイロード)、そして誤り検出用の FCS から構成されます。フレームは「封筒」のようなもので、宛先が合っていればスイッチが適切なポートへ転送します。

最小サイズは 64 バイト、一般的な最大は 1518 バイト(VLAN タグを含む場合は 1522 バイト)で、巨大なデータは複数のフレームに分けて送られます。フレームそのものの外側には送信のタイミングを整えるプレアンブルや SFD、フレーム間隔などもあり、機器同士の呼吸を揃える役割を果たします。

MAC アドレスと学習の仕組み

各機器のイーサネットインターフェースには固有の MAC アドレスが割り当てられています。スイッチはフレームを観察して「どの MAC がどのポートにいるか」を学習し、無駄なく転送します。

昔はハブと呼ばれる装置がすべてのポートに同時に電文をばらまいていましたが、現在はほとんどがスイッチで、全二重通信と組み合わせることで衝突を避け、安定かつ高速にやり取りできるようになりました。

ケーブルと端子、そしてアダプタとコンバーター

イーサネットと聞くと、RJ‑45 と呼ばれるコネクタ(厳密には 8P8C)を思い浮かべる方が多いでしょう。一般的な銅線ケーブルのカテゴリーには Cat5e、Cat6、Cat6A、Cat7、Cat8 などがあり、敷設距離やノイズ環境、狙う速度で選択します。オフィスや家庭では 100 メートル程度が実用上の上限で、長距離や電磁ノイズに強くしたい場合は光ファイバーを使います。

ここで登場するのがアダプタとコンバーターです。アダプタは、例えば USB 端子しかないノート PC に有線ポートを追加するようなときに用いられる変換デバイスです。2.5 ギガや 10 ギガ対応の USB アダプタを用意すれば、筐体に LAN ポートがなくても高速な有線接続を利用できます。

一方、コンバーターは媒体の種類を変える装置で、銅線と光ファイバーの相互変換をしたり、SFP/SFP+ などのモジュールを介して異なる物理方式を橋渡しします。現場の配線距離、既存設備との互換、コストのバランスを見ながら選定すると失敗が少なくなります。

PoE という給電の工夫

PoE(Power over Ethernet)は、同じケーブルでデータと電力を同時に供給する方式です。監視カメラや無線アクセスポイント、ドアホンなど、コンセントの確保が難しい機器に有用です。スイッチ側が対応していれば別途電源アダプタが不要になるため、設置がすっきりします。

速度と規格を読み解く

イーサネットの速度表記には 100BASE‑TX、1000BASE‑T、2.5GBASE‑T、5GBASE‑T、10GBASE‑T、さらには光の 10G/25G/40G/100G/400G/800G など多種多様なものがあります。末尾の T はツイストペア(銅線)、X や SR、LR などは光の種類や到達距離の違いを示します。

一般的なオフィスでは 1 ギガが広く普及し、近年は 2.5 ギガや 10 ギガでバックアップや動画編集の効率を高める事例が増えています。ケーブル側も Cat5e で 2.5 ギガや 5 ギガが動作するケースが多く、10 ギガでは Cat6A 以上を基本に考えるとよいでしょう。

スループットとレイテンシの実感値

名目のリンク速度と、実際のファイル転送速度は完全には一致しません。プロトコルのヘッダやフレーム間隔、TCP の制御、ストレージの性能などが影響するからです。1 ギガリンクで毎秒 100〜120 メガバイト程度、10 ギガで 800〜1100 メガバイト程度が目安です。大量の小さなファイルよりも、大きな連続データの方が理論値に近づきやすい傾向があります。

スイッチ、ルーター、アクセスポイントの役割

スイッチは同じネットワーク内でフレームを中継する装置で、機器同士を束ねる「交差点」のような存在です。

ルーターは異なるネットワーク同士をつなぐ境界役で、IP アドレスに基づいて転送先を決定します

無線アクセスポイントは、イーサネットの有線世界と Wi‑Fi の無線世界を橋渡しします。

構成を考えるときは、まずスイッチで土台の配線を作り、外部との通信やセグメントの切り分けをルーターで行い、可動機器の接続性をアクセスポイントで補う、という設計が分かりやすいです。

VLAN とタグの基礎

単一の物理スイッチ上で論理的にネットワークを分けるのが VLAN(仮想 LAN)です。802.1Q という方式では、フレームに VLAN タグを挿入することでネットワークを識別します。

機器ごとに通信を分離できるため、セキュリティやトラフィック管理が容易になります。VLAN をまたぐ通信はルーターや三層スイッチで行います。

フロー制御と全二重

全二重通信では送受信を同時に行えます。混雑時にフレームの流れを一時的に止める PAUSE フレームを使う「フロー制御」という仕組みもあり、バッファあふれを緩和します。ただし最新の設計では、装置のバッファやキュー制御、優先制御(QoS)を合わせて考えることが大切です。

典型的なトラブルと考え方

リンクが上がらない、速度が 100 に落ちる、パケットが時々失われる、といった症状は配線やオートネゴシエーションの不一致、古いケーブル規格、コネクタの劣化が原因のことが多いです。

まずはスイッチや NIC のリンクランプを確認し、別ポートや別ケーブルで切り分けます。次に、PC 側ドライバやファームウェアの更新、固定速度設定の有無、ジャンボフレームの設定不一致に注意します。

光なら、モジュールの種類(SR、LR など)や波長、シングルモードとマルチモードの取り違えがないか、清掃や曲げ半径の基準を満たしているかを点検します。

診断のための道具

基本的な疎通確認は ping、経路の確認は traceroute、スループットの確認は iperf のようなツールが便利です。スイッチのポート統計(エラーカウンタ、ドロップ、FCS エラー)を見れば、物理的な劣化か設定不一致かの当たりがつきます。必要に応じてテスターでケーブルの結線や長さを測定し、現場での信頼性を高めます。

セキュリティと可用性の基本設計

イーサネットはシンプルで強力ですが、誰でも差し込めるという性質上、入口対策が重要です。ポートごとの許可制御(MAC 認証や 802.1X)、監視カメラや IoT を VLAN で分離、ゲスト用と社内用のネットワークを明確に区別、といった設計が有効です。さらに、スイッチ間を二重化したり、リンクアグリゲーションで帯域と冗長性を確保したり、スパニングツリーでループを防いだりすることで、障害時の影響を最小限にできます。

時間に厳しいアプリケーションと TSN

産業機器や放送系のように遅延と揺らぎを厳密にコントロールしたい分野では、Time‑Sensitive Networking(TSN)という拡張が注目されています。これは時刻同期や優先度制御を強化し、イーサネット上で高精度のリアルタイム性を実現しようとする取り組みです。要求は厳しくなりますが、汎用機器で高度な制御を実現できる伸びしろがあります。

映像・音声ワークフローでの活用イメージ

大容量の映像素材を扱う現場では、10 ギガ以上のイーサネットで編集端末と NAS を直結したり、コアスイッチを中心に各端末へ高速配線を敷いたりする構成が一般的になりつつあります。NDI や SMPTE ST 2110 のように、映像や音声を IP 化して伝送する技術も広がり、機器間の接続やルーティングの自由度が飛躍的に高まります。こうした環境ではジャンボフレームや QoS の調整が転送効率や遅延に効いてきます。ノート PC の場合は 2.5 ギガ対応の USB アダプタを用意してボトルネックを解消すると、コピー時間の短縮に直結します。長距離のカメラフィードや編集室間の接続には、銅から光へ切り替えるコンバーターや SFP+ モジュールが役立ちます。

機器と構成の選び方のヒント

まず用途を明確にします。単純なインターネット利用が中心なら 1 ギガのスイッチで十分です。複数人で高解像度動画を扱うなら、コアを 10 ギガ、各端末は 2.5 ギガ以上にしてバックボーンの渋滞を避けます。ケーブルは敷設環境と将来の拡張を見越して選びます。既存の Cat5e が活用できるなら 2.5 ギガ移行はコスト効率が高く、ゼロから配線するなら Cat6A で 10 ギガまで見据えると長持ちします。配線の取り回しやラベリング、ラック内のエアフロー確保も性能に直結します。

NIC とドライバ、ジャンボフレーム設定

ネットワークインターフェースカード(NIC)は OS と密接に連携します。最新のドライバに保つこと、オフロード機能の有無、ジャンボフレームの MTU 値を送受の両端とスイッチで合わせることが安定運用の鍵です。片側だけ設定してもう片側が既定のままだと断続的な通信不良が起こりがちです。

スイッチの観点

静音性が必要ならファンレス、電源の冗長が必要ならデータセンター向け、PoE を使うなら総給電容量と各ポートの上限を確認します。レイヤー2 だけで足りるのか、VLAN 間ルーティングを内部でこなせるレイヤー3 機能が必要なのかも検討ポイントです。

よくある誤解を整理する

イーサネットとインターネットは別物です。インターネットは世界中のネットワークをつなぐ巨大な網のことで、その内部で多くの区間がイーサネットを使っています。Wi‑Fi は無線のやり方で、内部ではイーサネット互換のフレーミングや同等の仕組みでデータが運ばれます。つまり、イーサネットは「配達の方法」、インターネットは「行き先の広さ」、Wi‑Fi は「配達員が徒歩か自転車か」の違い、と捉えると分かりやすいでしょう。

小さな最適化が大きな差を生む

通信は最も遅い区間に引っ張られます。10 ギガの NAS に 1 ギガの端末をつないでも、端末側のコピー速度は 1 ギガの範囲にとどまります。逆に、端末に 2.5 ギガのアダプタを追加し、スイッチも 2.5 ギガ対応にすれば、ケーブルが同じでも体感は大きく改善します。ボトルネックをひとつずつ解消していく、という視点が費用対効果の高い改善につながります。

運用メモのすすめ

ネットワークは見えにくい資産です。どのポートに何がつながっているか、VLAN の設計、ジャンボフレームの有無、ケーブルの経路と長さ、使っているアダプタやコンバーターの型番と設定を簡単でもよいので記録しておくと、トラブル時の復旧が速くなります。将来の拡張や入れ替え時にも役立ちます。

用語のひとこと辞典

フレームはイーサネットで送受されるデータの入れ物、スイッチはフレームの通り道を切り替える装置、ルーターはネットワークの境界で行き先を決める装置、NIC は端末側のインターフェース、アダプタは端末に新たなインターフェースを付け足すための周辺機器、コンバーターは媒体や規格を変換する橋渡し、と覚えておくと整理しやすいです。

まとめ

イーサネットは、安定性と拡張性に優れた有線通信の標準規格です。フレームという入れ物を介して機器同士が確実にデータを届け合い、スイッチやルーター、VLAN といった要素が組み合わさって柔軟で強いネットワークを形作ります。実機選びでは、必要な速度、ケーブルの品質、将来の拡張性、PoE の要不要、そしてアダプタやコンバーターの活用方法を総合的に考えるのがポイントです。

ここで押さえた基礎を出発点に、現場の要件に合わせて一歩ずつ最適化していけば、日々の業務や制作の効率、配信の安定、データ保全の安心につながっていきます。イーサネットは難解な専門技術ではなく、身近な道具の延長線上にある実践的な知識なのだ、と感じていただければ幸いです。