【解説】 Crowd Strikeとは何かを解説します

現代のビジネス環境において、サイバーセキュリティは企業の存続を左右する最重要課題の一つです。その中で、世界中の企業や政府機関から絶大な信頼を集めているのが「CrowdStrike(クラウドストライク)」です。

本記事では、次世代セキュリティのリーダーであるCrowdStrikeについて、その仕組み、主力製品であるFalconプラットフォームの特徴、そしてなぜこれほどまでにシェアを拡大しているのかを、専門的な観点も交えつつ、初心者の方にも分かりやすく徹底解説します。

CrowdStrike(クラウドストライク)とはどのような企業か

CrowdStrikeは、2011年にジョージ・カートツ(George Kurtz)氏らによって設立された、アメリカ合衆国テキサス州オースティンに本社を置くサイバーセキュリティ企業です。

創業者のカートツ氏は、かつてセキュリティ大手McAfee(マカフィー)のCTO(最高技術責任者)を務めていました。彼は当時のセキュリティ対策が、進化するサイバー攻撃のスピードに追いつけていないこと、そして既存の対策ソフトが端末の動作を重くし、運用管理が複雑化していることに強い危機感を抱いていました。

「クラウドの力を活用して、もっと速く、もっと賢く、攻撃者を止めることはできないか」

この問いから生まれたのがCrowdStrikeです。同社は「We Stop Breaches(我々は侵害を阻止する)」というシンプルかつ力強いミッションを掲げています。

最大の特徴は、創業当初から「クラウドネイティブ」なアーキテクチャを採用している点です。従来のセキュリティ対策が、各パソコン(エンドポイント)の中でウイルス検知を行っていたのに対し、CrowdStrikeはデータをクラウド上に集約し、AI(人工知能)を使って解析を行うという、当時としては画期的なアプローチを取りました。

現在では、フォーチュン100企業の多くが採用しており、セキュリティ業界のデファクトスタンダード(事実上の標準)としての地位を確立しています。

従来のウイルス対策ソフトとの決定的な違い

CrowdStrikeを理解するためには、これまでの「アンチウイルスソフト」との違いを知る必要があります。

1. シグネチャ方式からの脱却

従来型ソフトは「シグネチャベース」と呼ばれる方式が主流でした。これは、既知のウイルスの特徴(指名手配写真のようなもの)をデータベース化し、それと一致するファイルをブロックする仕組みです。しかし、この方法には限界がありました。毎日何十万と作られる新種のウイルスや、ファイルを使わない攻撃(ファイルレス攻撃)には対応できなかったのです。

CrowdStrikeはこれに対し、「振る舞い検知(Behavioral Analysis)」を採用しています。ファイルの中身だけでなく、「そのプログラムが何をしているか」という挙動を監視します。例えば、「PowerShellが普段アクセスしないシステム領域を書き換えようとしている」といった不審な動きをAIが検知するため、未知の攻撃も防ぐことが可能です。

2. 重くならない仕組み

従来型ソフトは、巨大なウイルス定義ファイルを毎日パソコンにダウンロードし、定期的にパソコン全体をスキャンする必要がありました。これが「パソコンが重い」原因でした

CrowdStrikeは、端末側での処理を最小限に抑えています。重い解析処理はすべてクラウド上のスーパーコンピューターが行うため、ユーザーはセキュリティソフトが動いていることすら気づかないほど軽快にPCを利用できます

中核をなすプラットフォーム「Falcon」

CrowdStrikeのサービスを語る上で欠かせないキーワードが「 Falcon (ファルコン)」です。これは同社が提供するセキュリティプラットフォームの総称であり、CrowdStrikeの技術の粋が集められたブランド名でもあります。

Falconプラットフォームには、以下の3つの大きな革命的な特徴があります。

シングルエージェント・アーキテクチャ

通常、セキュリティ機能を増やそうとすると、アンチウイルス用のソフト、EDR用のソフト、資産管理用のソフトなど、複数のプログラムをインストールする必要があり、これがシステムの競合やパフォーマンス低下を招いていました。

Falconは「シングルエージェント」という設計思想で作られています。パソコンやサーバーにインストールするのは、「Falconセンサー」と呼ばれる非常に軽量な1つの小さなプログラムだけです。

このたった1つのセンサーを入れるだけで、契約形態(ライセンス)をクラウド側で変更するだけで、次世代アンチウイルス機能、EDR機能、脅威ハンティング機能など、様々な機能を即座に有効化したり無効化したりできます。再インストールや再起動は不要です。この手軽さが、大企業での導入を一気に加速させました

クラウドスケールのAI解析

Falconセンサーは、端末上のイベントデータ(どのようなプロセスが動いたか、通信が行われたかなど)をリアルタイムでCrowdStrikeのクラウド「Threat Graph(スレットグラフ)」に送信します。

Threat Graphは、世界中の数百万台以上のエンドポイントから送られてくる数兆件規模のイベントを毎週処理しています。この膨大なビッグデータをAIが学習し続けているため、世界中のどこか一箇所で新しい攻撃手法が見つかると、その防御策が即座にAIに学習され、瞬時に世界中のすべてのFalconユーザーが守られることになります。これを「集団的防衛(Crowdの力)」と呼び、社名の由来にもなっています

IOA(攻撃の痕跡)による検知

従来のセキュリティはIOC(Indicators of Compromise:侵害の痕跡)を重視していました。これは「攻撃された後に残る証拠(ハッシュ値やIPアドレス)」のことです。

対してFalconは、IOA(Indicators of Attack:攻撃の兆候)に焦点を当てています。これは「攻撃者が目的を達成するために行う一連の手順」に着目するものです。攻撃者がどのようなツールを使おうと、最終的な目的(データの盗難や暗号化)に至るまでのプロセスには共通点があります。Falconはこの文脈を読み取ることで、攻撃が完了する前にブロックします。

主要なモジュールと機能

Falconプラットフォームは、用途に合わせて様々なモジュール(機能)で構成されています。代表的なものを解説します。

Falcon Prevent(次世代アンチウイルス:NGAV)

既知のマルウェアだけでなく、機械学習とAIを活用して、未知のマルウェアやランサムウェアを防御します。インターネットに接続されていないオフラインの状態でも保護機能が働くように設計されています

Falcon Insight(EDR:エンドポイントでの検知と対応)

EDR(Endpoint Detection and Response)は、CrowdStrikeの代名詞とも言える機能です。万が一、マルウェアが防御をすり抜けて侵入した場合でも、その挙動をすべて記録・可視化します。 「いつ、どこから侵入し、どのファイルに触れ、どこへ通信したか」が時系列でグラフィカルに表示されるため、管理者は被害状況を即座に特定し、遠隔操作で端末をネットワークから隔離したり、悪意あるプロセスを停止したりすることができます。

Falcon OverWatch(脅威ハンティング)

どれだけAIが進化しても、高度なスキルを持った人間のハッカーによる巧妙な攻撃を100%自動で防ぐことは困難です。そこで提供されるのがOverWatchです。 これは、CrowdStrike所属の精鋭セキュリティ専門家チームが、24時間365日体制で顧客の環境を監視し、AIが見逃すような微細な攻撃の兆候を「人の目」で探し出すマネージドサービスです。AIと人間のハイブリッド防御こそが、Falconの真骨頂です。

Falcon Discover(IT資産管理)

社内ネットワークに接続されている端末や、インストールされているアプリケーション、ユーザーアカウントの状況を可視化します。「管理されていない野良PC」や「脆弱性のある古いアプリ」を洗い出すことで、セキュリティホールを塞ぎます。

「1-10-60ルール」という基準

CrowdStrikeは、セキュリティ対応のスピードにおいて「1-10-60ルール」というベンチマークを提唱しています。これは、高度なサイバー攻撃に対抗するために組織が目指すべき目標タイムです。

  1. 1分で検知する:攻撃の発生を1分以内に探知する。
  2. 10分で調査する:検知したアラートが本当に危険なものか、どのような攻撃かを10分以内に理解する。
  3. 60分で封じ込める:攻撃者をネットワークから排除し、被害の拡大を1時間以内に止める。

Falconプラットフォームは、この極めて厳しい基準を達成できるように設計されており、自動化機能や直感的な管理画面によって、セキュリティ担当者の迅速な意思決定を支援しています。

2024年のシステム障害とその教訓

CrowdStrikeを語る上で、2024年7月に発生した世界規模のシステム障害について触れないわけにはいきません。この出来事は、同社の製品がいかに世界のインフラに深く組み込まれているかを示すと同時に、単一ベンダーへの依存リスクも浮き彫りにしました。

何が起きたのか

2024年7月19日、CrowdStrikeが配信したFalconセンサーの設定更新ファイルに論理的なエラーが含まれていました。この更新を受け取ったWindows端末が、システムの不整合を起こし、いわゆる「ブルースクリーン(BSOD)」状態となり、再起動を繰り返す事態に陥りました

航空会社、銀行、放送局、病院など、世界中の重要インフラが一時的に機能を停止し、その影響は甚大でした。これはサイバー攻撃ではなく、ベンダー側のアップデート手順のミスによるものでした。

その後の対応と信頼

この事故は大きな批判を浴びましたが、同時にCrowdStrikeの対応の透明性も注目されました。同社は即座に原因を特定し、CEOが公に謝罪し、詳細な技術的分析レポート(RCA)を公開しました。また、再発防止策として、アップデートの配信を一斉に行うのではなく、段階的に適用する「カナリアリリース」の徹底などを約束しました

この一件は、「セキュリティソフト自体がシステムを止めてしまう」というリスク(可用性の侵害)を世界に認識させました。しかし、それでもなお、多くの企業がCrowdStrikeの利用を継続しています。それは、彼らの提供する防御能力が、現代の巧妙なランサムウェア攻撃を防ぐ上で代替不可能に近いレベルにあると判断されているからです。

なぜCrowdStrikeが選ばれるのか

競合他社がひしめく中で、なぜCrowdStrikeは選ばれ続けるのでしょうか。

インテリジェンス能力の高さ

CrowdStrikeは元々、攻撃者グループ(脅威アクター)の追跡・分析において世界トップクラスの能力を持っています。彼らは攻撃者グループに「Fancy Bear(ロシア系)」や「Panda(中国系)」といったユニークな名前を付けて分類し、その手口を知り尽くしています。 「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」の通り、攻撃者の心理や動機まで踏み込んだ深い洞察(スレットインテリジェンス)が製品に反映されている点が、技術力だけの他社とは一線を画しています。

XDRへの進化

近年、Falconはエンドポイントだけでなく、クラウドワークロード、アイデンティティ(ID)、データなど、守る領域を広げています。これをXDR(Extended Detection and Response)と呼びます。 例えば、正規のIDとパスワードを使ってログインされた場合、従来のウイルス対策では「正常なアクセス」とみなされます。しかしFalconのID保護機能(Falcon Identity Protection)なら、「東京でログインした5分後にニューヨークからアクセスがあった」といった不自然な挙動を検知し、ブロックできます。

運用コストの削減

高機能なセキュリティ製品は操作が難しくなりがちですが、Falconの管理画面は非常に洗練されており、直感的です。また、前述の通りエージェントが一つで済むため、PCのセットアップやトラブルシューティングにかかる情シス部門の工数を大幅に削減できます。結果として、TCO(総保有コスト)の削減につながるという経営的なメリットも評価されています。

今後の展望とまとめ

CrowdStrikeは、単なるアンチウイルスメーカーではなく、「セキュリティクラウド」という新しいインフラを構築した企業と言えます。Salesforceが顧客管理をクラウド化したように、CrowdStrikeはセキュリティ運用をクラウド化しました

AI技術の進化に伴い、攻撃者の手口も自動化・高度化しています。これに対抗するため、CrowdStrikeも生成AIを活用した「Charlotte AI(シャーロットAI)」などの新機能を発表しています。これは、セキュリティ担当者が「今の環境に脆弱性はある?」とチャットで質問するだけで、AIが分析結果を回答してくれる機能です。これにより、専門知識が不足している企業でも高度なセキュリティ運用が可能になります。

まとめ

CrowdStrikeとは、以下のような特徴を持つ次世代セキュリティソリューションです。

  1. クラウドネイティブ:定義ファイルの更新が不要で、常に最新の防御力を維持。
  2. Falconプラットフォーム:シングルエージェントでPCを重くせず、多層的な防御を実現。
  3. EDRのリーダー:攻撃を止めるだけでなく、侵入後の調査・復旧までをカバー。
  4. 脅威インテリジェンス:攻撃者の手口を知り尽くした専門家集団によるサポート。

2024年の障害は大きな教訓となりましたが、それを乗り越え、品質管理体制を強化したCrowdStrikeは、依然としてサイバーセキュリティの最前線を走るトップランナーです。

デジタルトランスフォーメーション(DX)が進む現代において、「止まらないビジネス」と「漏れない情報」の両立は必須です。その基盤として、CrowdStrike Falconは、現代のデジタル社会を守るための「免疫システム」のような役割を果たしていると言えるでしょう。

セキュリティ対策の見直しや、レガシーなアンチウイルスからの脱却を検討されている場合、CrowdStrikeは間違いなく検討の最有力候補となるはずです。